次に歌うなら君へのラブソングを(13)

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12話

 自分が花房の夢を妨げてしまった。その事実に、夜も眠れないほど悩んだ。

 同じ教室で、いずれは室長として切磋琢磨したい。自分の密かな夢は、花房の夢を踏みにじった上にしか成立しないのだと、改めて思い知らされる。

 司が悩んで出した結論は、花房がいつでもミュージシャンに戻りたいと言ってもいいようにすることだった。

 本当はふたりで分担して、空き時間にガンガン営業電話をかける予定だったが、彼の手から適当な理由をつけて取り上げた。

 授業を減らすのは無理だが、それ以外の負担を減らし、むしろ「必要とされていない」と勘違いしてくれれば、「やめてやる!」という勢いに繋がるのでは、と思った。

 だが、司の計画はすぐに頓挫した。

 自分の報告書を書き上げた花房は、手伝うことはないかと聞いてきた。もちろん、ひとりで抱えていたら終電はおろか、教室に泊まらなければならないほどの仕事量を抱えていたが、おくびにも出さずに笑う。

「特にないから、終わったなら先に帰っていいぞ」

 時間に余裕ができれば、またギターを弾きたいという気持ちになるかもしれない。

 彼はすん、と鼻を鳴らして不満そうな顔を見せる。そのまま数分、うろうろしていたが無視していると、花房は「わかりました」と言って、タイムカードを切って、教室を出て行った。

 その後、二時間余りデスクワークをこなしても、まだ終わる気配がない。首と肩の凝りをほぐして、あともう少し! と、パソコンに向かい直す。

「蓬田先生」

 誰もいないはずの部屋に、花房の声がした。同時に手元には、缶コーヒーが置かれる。好みのブランドの微糖。どうせならブラックがよかったな、と零すと、「今日、ほとんど何も食ってないでしょう? 少しでも糖分を摂ってください」と、強引に握らせてくる。以前とは逆だった。

「あ、ありがとう」

 一度家に帰ったらしく、花房はジャケットを着ていなかった。コンビニで買ってきた食糧を渡されるが、司は食欲がないと断った。

 彼は大きく溜息をつくと、マウスを操る司の手元に、バン、と手をついた。驚いて作業を止め、恐る恐る見上げる。

 怒っている。ただでさえ眼光が鋭いのに、意識的にこちらを睨みつけてくるのだから、人となりを知っている司であっても、びびってしまう。司は彼の目から逃れたくて、俯いた。

「あんた、あれだけ俺に無理するなって言ってて、自分は何をひとりで抱え込んでるんですか」

「それは……」

「俺は、そんなに頼りないですか?」

 顔を上げると、彼は眉尻を下げて情けない顔をしている。自虐に笑おうとして失敗した、下手くそな笑顔を載せた唇に、反射的に「違う!」と言って、立ち上がりかけた。

 俺は、お前がいつでも戻れるように……!

 続けようとした司を止めたのは、花房ではなかった。静まった部屋に響く、教室の固定電話への着信。

「……」

 こんな時間にかかってくる電話に、いい報せはない。

 司は花房から目を離して、息を整えてから電話に出た。

「はい。ワンツーゼミナール……」

 教室名を言おうとしたところで、悲痛な叫び声が発せられ、あまりの大きさに耳を離す。花房にも聞こえて、彼も顔を顰めた。

『先生! うちの子どこ行ったか知りませんか!?』

 

14話

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