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<100話
適当なところでランチにして、それからショッピングへ。
「明日川くんは、何か見たいお店はないのですか?」
呉井さんの好きそうなテイストの店は、昨日柏木から仕入れている。彼女は何度もこのショッピングモールに足を運んでいるので、マップに丸をつけてくれた。勿論そんなものを手にして歩くわけにはいかないので、一晩で丸暗記してきた。
呉井さんも年頃の女の子。買う買わないは別にして、ショッピングは好きな様子。洋服や雑貨を見ている表情は、まさか「クレイジー・マッド」などと呼ばれているとは、到底思えない。
疲れたかな、というところで俺は彼女に声をかけた。
「近くのカフェでお茶でもしよう」
「はい」
同じ過ちはしない。俺はカフェオレをオーダーした。呉井さんの視線はカップケーキに釘付けだったので、勝手に注文した。
セットで頼んだ紅茶を飲みながら、
「明日川くんは、見たいお店はないのですか?」
と、呉井さんは不安そうに言う。女子向けの店ばかり連れ回した罪悪感が、彼女の顔に書いてある。俺は首を横に振った。
「今日は誕生日でしょ? 呉井さんの好きな店を見るって決めてるから」
もう一度見たいところはあるかと尋ねると、呉井さんは少し考えて、最初の方に見た雑貨店を上げた。
その店では、ガラス細工をたくさん扱っていた。クリスマスまでは一か月以上あるけれど、スノードームまで置いてある。そのうちのひとつを、呉井さんはじっくりと眺める。舞い上がるラメがキラキラと輝きながら、ゆっくりと落ちていく。
「気に入ったのあった?」
「ええ」
そう言いながらも、呉井さんはスノードームを棚に戻した。買わないの、と言うと呉井さんは首を横に振った。
「買いません」
視線は名残惜しそうに品物に向けられるが、呉井さんは絶対に買わないという強い意志を示した。購入したとしても、そのまま遺品になるだけだ。
思えば、彼女が使っていた手帳もペンケースも、革製の上質な物だった。そしてきちんと手入れがなされていて、かなりの年数使用していた形跡がある。最低限の物を使用することで、後に遺す物を極力減らそうという努力を、俺は今ここに至って知った。
「じゃあもう一度、ゲーセン行く?」
呉井さんは楽しそうに微笑んで、「今度は負けませんわ」と、格ゲーへのやる気を見せた。
>102話
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