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<25話
「呉井さん、本を持ってきたの?」
よくぞ聞いてくれました、と呉井さんはぱっと笑顔を浮かべて、表紙を俺に見せた。ふせんがたくさん貼られていて、彼女の勉強熱心さが伝わってくる。とはいえ、それは単語帳ではない。
「『食べられるキノコの見分け方』……?」
「キノコだけじゃありませんわ!」
呉井さんは、背負っていたザックを、よっこらせ、と下ろした。中から出てくるのは、俺の予想どおり、本、本、本……。
「野草図鑑に、木の図鑑もあります」
どうやら、彼女のザックの半分以上は、厚い図鑑(これでもポケットサイズ、らしい)で埋まっている。朝、仙川から手渡されたバッグをと、呉井さんの背負うザックを交互に見る。
まさか、弁当までこっちの鞄に入ってるんじゃなかろうか。念のために、もっと丁寧に持ち歩くことにする。
「なんでそんなに、図鑑ばっかり」
文武両道の呉井さんは、文理問わずに成績優秀だ。中間テストの結果は本人以外に開示されないが、同じクラスのガリ勉を擬人化したような奴が、「今回も一位は君なんだろう!?」と絡んできたのを、彼女は否定しなかった。
俺が知らないだけで、呉井さんは植物に興味関心があったのだろうか。花と呉井さん……似合いすぎるな。俺の想像の中の花は、薔薇とか百合とか、そういうのだ。決してキノコではない。
「お二人が先日、話してらっしゃったことを参考にしました」
お二人……とは、言わずもがな、俺と柏木だ。俺たち三人と瑞樹先輩は、トークアプリの中でグループを作成して、そこで喋っている。柏木の強い主張によって、非公開になっている。オタクだとばれるリスクは少しでも減らした方がいいし、クラスで浮いている俺たちと親しくしていることなど、知られたくないだろう。柏木は、そうは言わなかったけれど、なんとなくわかる。
ちなみに瑞樹先輩は、ほとんど既読スルーで、発言をしない。お目付け役というか、新しい友達との交流を、微笑ましく見守っているのだろうな。
え? 仙川? 入れるわけない。あいつは大人だからな。高校生同士のコミュニティに、首を突っ込みにこなくていいんだよ。呉井さんも、特に「恵美は?」と提案しなかったことだし。
で、そこで柏木が余計なことを言ってくれたんだな。
>27話
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