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<34話
「ダイエットしてるんだ、僕」
二回言われて、ようやく理解できたが、信じがたい。
だって、瑞樹先輩だぞ?
俺と呉井さんがあれこれ喋っているときも、会話に入らずに黙々とその場にあるお菓子を食べ、気づいたときには空っぽにしている、食欲魔人の先輩が、ダイエットだって?
慌てて俺は、瑞樹先輩に詰め寄る。
「ど、どうしたんですか、先輩? 健康診断の結果が悪かったんですか? それともクラスの奴らに何か言われた? 好きな女子ができたとか?」
食べることが何よりも大好きだ、という表情で食事に臨む彼のことを、俺は結構好きだ。美味しそうに食べているから、自分も食べたくなる。
「ダイエットなんてしなくても、先輩はモテてますよ!」
もともとの顔の造作が整っているのもそうだし、ふっくらしたフォルムが癒し系だ。運動部のエースだとか、生徒会長だとかいう目立った活動はないのに、瑞樹先輩はたまに、クラスでも話題に上がるほどだ。
俺のあまりのうろたえっぷりに、瑞樹先輩は苦笑を浮かべる。
「大丈夫だよ。食事はしっかりと摂っているからね。むしろ君には、僕が無駄に間食をしないように、見張ってもらいたいくらいだ」
瑞樹先輩は、平気そうに見えるが、内心では自らの欲求と戦っているのだろう。よく見れば、視線が机のおやつにちらちらと向けられている。
俺はお菓子に覆いかぶさって、瑞樹先輩の目から隠した。自分ばかりが食べるのも気が引けるので、コンビニのビニール袋に入れ、「これはまた来週食べましょう」と提案する。
「ありがとう。まどちゃんはきっと、僕に食べさせようとするから……それもできれば、止めてくれると嬉しいな」
「呉井さんは、先輩のダイエットに反対なんですか?」
断食とかの無理なダイエットをしているのなら、俺だって止める。でも、間食を減らして正しい食生活を送るのなら、先輩の健康にもいいことだから、俺は賛成だ。呉井さんも、大事ないとこである先輩の身体を思うなら、大賛成するのが正解だと思うのだが。
「円香ちゃんは、僕に太ったままでいてほしいはずだからね。だから、ダイエットのことは、彼女には内緒にしてほしい」
呉井さんは、デブ専なのだろうか?
理由はわからないが、とりあえず俺は、頷いた。
そろそろ呉井さんが被服室に現れる頃合いだ。おやつは全部食べてしまったという体にするため、ひとまず俺が、鞄に入れて持ち帰ることにした。
>36話
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