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<40話
グループトークで二人で呼びかけようが、個人的に柏木宛にメッセージを送ろうが、既読はつかなかった。ますます怪しい。あまり追いつめても、ブロックされてしまうかもしれないので、何度もメッセージを送信するのは我慢しているし、文面も穏やかなものにしている。
なかなか眠れぬ夜を過ごして登校する。
「おはようございます」
呉井さんもどうやら同じだったらしく、目が赤い。返事来た? と聞くと、彼女は残念そうに首を横に振った。
俺は逆隣を見やる。柏木はまだ登校してきていない。彼女は遅刻ギリギリの常習犯ではない。そろそろ登校してもおかしくない時間なのだが、昨日の今日で顔を合わせづらいのかもしれない。
荒らされた手帳について、呉井さんは担任に報告した。あまり深刻になり過ぎないように、ぐちゃぐちゃにされた皺はできる限り伸ばし、破れた部分は見せなかった。狙い通り担任は、一応眉を顰めてはいたものの、呉井さんの「犯人捜しをホームルームでするとかは、しないでほしい。もしかしたら、不幸な事故かもしれない」という言葉を飲んだ。
真相は、自分たちの手で捕まえようと呉井さんと話し合った。万が一、本当に柏木がやったのだとしても、何か理由があるに違いない。表立っては仲良くしたことはないが、スマホでのやり取りでは、俺たち三人はとっくに友人だ。柏木が、呉井さんに嫌がらせを率先して行うわけがない。
それにしても、柏木は来ない。彼女の所属しているグループの女子は、柏木の不在など気にした様子もなく、発売されたばかりのファッション誌を覗き込んで、ああでもないこうでもないとガールズトークに花を咲かせている。普段なら、あそこに柏木もいるのに。
俺は立ち上がり、勇気を出して一歩前に足を踏み出した。転校前の俺だったら、ギャルっぽいというだけで、話しかけるのを躊躇していた。今だって、ちょっと怖いと思っている。
「あのさ。柏木って今日、学校休みなのかな?」
軽い調子で聞くと、一斉に視線が向けられる。似たようなメイクをした女子たちの目が集中すると、やっぱり迫力がある。思わず、一歩後ずさった。
先程まで、楽しくおしゃべりに興じていたじゃないか。そのノリで、「え~? しらな~い」とか、「なんで明日川が気にすんのよ」と、俺とも話を弾ませてくれてもいいじゃん。なんで黙るんだよ。
「あの、柏木……」
オタクの小声と早口が災いしたのかと思った俺は、もう一度柏木の名前を出す。すると、リーダー格のギャルが、大きくわざとらしく溜息をつく。ただそれだけの反応に、俺はビビる。
「え? なつめ? あんたなつめのこと好きなの?」
出た! 発想の飛躍! 柏木が登校してこないのを気にしただけで、なんで恋バナに発展させられるんだ? ギャルこええ!
>42話
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