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<41話
「別にそういうわけじゃないけど」
うっかり早口になってしまった。彼女はぎゃはは、と笑った後、目配せでグループ内で無言の相談をしている。自分たちの知っていることを、俺に話すべきか。話すとしたら、どんな風におもしろおかしく聞かせるのか。仲良しグループの一員である柏木の話をしているのに、なんで意地悪そうな笑みを唇に浮かべているんだろう。
胸のあたりがムカムカして仕方がない。クラスでは必要以上の接触は避けているが、俺たちの方がよほど、柏木のことを仲間だと思っている。そう思うと、ギャルグループに対する緊張がするっとほどけてなくなった。
「知らないならいいや」
我ながら、冷たい声が出たと思う。普段聞きなれない声に呉井さんは戸惑い、「明日川くん?」と、俺の袖を引いた。
俺たちの様子が、彼女たちの目にはどう映ったのか、思い切り舌打ちをされる。これ以上、俺と話す気はないという意志表示に、彼女たちは再び、雑誌に目を落とした。イケメン俳優の誰が格好いいとか、そういうどうでもいい話に興じている。
俺は呉井さんと目を合わせて、肩を竦めた。こうなったら、スマホで嫌がられようともガンガン連絡をしまくるか、放課後、直接家まで行くかの二択か。
できれば後者の方法は取りたくないものだ。担任に柏木の家の住所を聞き出すのも手間だし、女子の家に行くというシチュエーションは、俺にはハードルが高すぎる。
席に戻って、担任が来るまでのわずかな時間、柏木宛の文面を考える。
彼女が既読スルーできず、一発で返信をしたくなるようなメッセージは、なかなかに難しい。根っからの文系人間だが、文才があるわけではない。
何せ、オタクはすでに語彙力が失われる生き物だからな。柏木との個人的なやり取りは、だいたい彼女が『スタ学』の話題を一方的に垂れ流す。俺も、今やっている深夜アニメの話をする。だいたい最後はお互いに、「尊い」しか言わなくなるくらいだ。
「そうだ。呉井さん。昨日拾ったぬいぐるみ、持ってきてる?」
尊い、で思い出した。呉井さんはピンクの髪をしたぬいぐるみを鞄から取り出した。拾ったときにはホコリがついていたが、彼女の手によって、きれいにされている。何なら、かすかにいい香りがする。これは呉井さんの部屋の匂いだろうか……。
「明日川くん? このぬいぐるみを、どうなさるのですか?」
おっと。妄想している場合じゃなかった。
俺は実際の『スターライト学園』の桃次郎に似ているようで似ていない、ちょっと不細工なぬいぐるみを写真に撮った。
「こうするんだ」
やましいものはないので、呉井さんにトーク画面を見せた状態で、俺は素早く文面を打った。
>43話
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