クレイジー・マッドは転生しない(43)

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クレイジー・マッドは転生しない

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42話

 放課後、俺たちはまっすぐ被服室へ向かった。今日は週イチの定例会の日ではないが、クラスの人間の目がない場所となると、一般生徒からは存在を忘れられている、この特別教室しか心当たりがなかった。

 使用されていないとはいえ、誰でも入っていい一般教室とは違い、鍵がかかっている。そしてその鍵の持ち主といえば。

「お嬢様と男子生徒を、二人きりにさせるわけないだろうが」

 ですよねー。知ってました! 鍵を借りるだけではなく、仙川がついてくるのは想定の範囲内だ。

 瑞樹先輩は、呼べば来るかもしれないが、呉井さんが「瑞樹さんには迷惑をかけるわけにはいきません」と遠慮していたので、やめた。後日、ペンケース事件の捜査結果は報告したいと思う。

 早く解決に導きたい。そのためにも、柏木にきちんと話を聞く必要があることを、呉井さんもわかっている。

 彼女は緊張した面持ちで、被害を受けた手帳の拍子を撫でていた。カバー自体に損傷はなかったので、中身を入れ替えれば大丈夫だったのは、不幸中の幸いである。四月始まりのが安く買えました、と強がって微笑んでいた。

 指定の時間ちょうどに、被服室の扉がノックされた。俺が出ようとすると、呉井さんに袖を引いて止められる。その隙に、仙川がドアに向かった。

「恵美の仕事ですから」

 俺は彼女の言葉に従って、椅子に座り直した。確かに、あんな文面で呼び出した張本人がいきなり目の前に現れては、柏木の怒りは爆発するだろう。長身の仙川によるブラインドで、多少勢いが削がれてくれていればいいけど。

 そんな俺の希望は、すぐさま打ち砕かれるのだった。仙川によって中に通された柏木は、スマートフォンを突きつけてくる。

「いったいこれはどういうことよ!?」

 画面には、俺が送った脅迫文とぬいぐるみの写真。

『人質は預かった。返してほしければ、今日の十五時半、被服室まで来い』

 わざわざぬいぐるみが「助けてぇ~」って言っているように、涙のスタンプまで写真に貼りつけて加工した。こんなものに釣られるかよ、と思うが、そこはほら、オタクを隠したいけどぬいぐるみを持ち歩きたいというジレンマを抱き、欲求に従ってしまう柏木だ。オタクってちょろい。

「早く返して」

「落ち着いてください、柏木さん。まずは座って、私たちのお話を聞いていただけますか?」

 俺には猛烈な勢いで荒れ狂う柏木も、丁寧な呉井さんの言葉には、いったん落ち着きを取り戻す。渋々ではあったが、彼女は椅子に座った。

「話って?」

 腕を組んで踏ん反りがえった偉そうな態度。俺にはわかる。呉井さんの背後にそっと控えた仙川が、お嬢様を馬鹿にされたという怒りと屈辱で、わなわなと震えているのが。仙川は男の厳しく、女にはそこそこ優しく、呉井さんにはただただ甘い対応をするのだが、さすがに柏木の態度は、限度を超えているようだ。

 早期決着を決めなければ。首を絞められるのは勘弁だ。

44話

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