クレイジー・マッドは転生しない(53)

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クレイジー・マッドは転生しない

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52話

 平穏な日々が戻ってきた。呉井さんもすっかり元気を取り戻している。梅雨明けも近いのだと思うと、なんとなくわくわくする。

 柏木は、オタクを隠さないギャルになった。グループからは少しはぐれてしまったようだけれど、楽しそうに俺や呉井さんと話しているので、気にしていないらしい。目下、呉井さんにコスプレをさせようと頑張っている。呉井さん自身はそこそこ乗り気なのだが、残念ながら仙川を突破することができないでいる。

 今朝も教室では、アニメ雑誌を片手に柏木が、生き生きとプレゼンテーションしていた。呉井さんはよくわかっていないけれど、「可愛らしいですね」とにこにこしていた。いやいやそのキャラ露出度高すぎ。見る分には可愛いけど、柏木は呉井さん、君に着せようとしているんだよ? そこんとこわかってる? うん、わかってないね!

 下手に絡むと柏木の魔の手が俺にまで迫ってきそうだ。

「せっかくピンク髪なんだからさ~。地毛で桃様のコスやろ? アニメのOPの衣装とか、あたし頑張って作るよ?」

 とかなんとか。

 触らぬ神に祟りなし。俺はこっそりと教室を抜け出して、三年生の教室が並ぶ棟にやってきた。

 さすが受験生、みんな机に齧りついて勉強している。声をかけにくい雰囲気に、ちらちら中を窺っている俺に、瑞樹先輩の方が気づいてくれて、廊下まで出てきてくれた。

「こんなところまで来るなんて、珍しいね」

 事件の顛末を報告すると、彼は相槌を打ちながら聞いていた。

「と、いうわけで一応解決しました」

 ふぅん、と瑞樹先輩は言う。その表情が、どうも何か言いたそうに見えた。

「あの、何か気になることでもあるんですか?」

「気になること、か。それは明日川くんの方じゃない?」

 俺?

 俺は事件の最初から最後まで見届けた立場なので、疑問に思うことなんてひとつもない。瑞樹先輩の言わんとしていることが理解できずに首を傾げていると、彼は勝手に一人で喋り始める。

「まどちゃんのペンケースを捨てたのは柏木さん。でもそれは、クラスの女子に脅迫されて仕方なくやったことで、まどちゃんに謝って許された。手帳を破ったのは、まどちゃんに告白した男子のことを好きだった、一年生の女の子。まどちゃんに責められて、自主退学することになった」

 合ってる? と、視線で問われて俺は頷く。事件はこれですべてだ。他には勃発していない。悪いことをした人間はみんな糾弾されて、やらかしたことに応じたレベルで、罰を受けたと思う。

「全部解決したはずなのに、どうして君は、『一応』って濁したのかな?」

「そんなの……深い意味なんて、ないですよ」

「本当に?」

 澄んだ瞳が瞬きもせずに、俺を追及する。

 ない。

 なかった、はず。

 本当に?

54話

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