クレイジー・マッドは転生しない(57)

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クレイジー・マッドは転生しない

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56話

「呉井さん? 具合悪いの?」

 俺の言葉に、瑞樹先輩に合宿の案をべらべら喋っていた柏木が、口を閉ざす。振り向いてぎょっとすると、呉井さんに、「今ならまだ、保健室開いてると思うけど……」と声をかけた。

「あ、あの……いえ、なんでもありませんの」

 弱々しく微笑んだ呉井さんは、ついさっきまでと様子が違いすぎて、なんでもないようには見えない。

 こういうとき、真っ先に口と手を出して休むように言うのが仙川のはずなのだが……。ちらりと彼女を窺うと、痛ましい表情で、呉井さんを見つめている。その手を瑞樹先輩がぐっと掴んでいるから、本当は駆け寄りたい気持ちでいっぱいなのだろう。

 瑞樹先輩の行動は、よくわからない。過保護な仙川を止めて、呉井さんの自立を促しているのだろうか。それならもっと早くからそうすべきだと思うし、別に呉井さんは仙川べったりじゃないと、何もできない子ではない。

「合宿、嫌だった?」

 一人ではしゃいでいた柏木が、しゅーんと肩を落とした。呉井さんは、「違います」と即答する。

「合宿は楽しそうだから、ぜひやりたいと思います。けれど……」

「けれど?」

 呉井さんは瑞樹先輩を窺う。先輩は、何も言わない。表情ひとつ変えずに、ただ呉井さんを見ているだけだ。

「その、場所は瑞樹さんの別荘じゃなくて、わたくしの家の別荘を、使ってほしいのです」

 ちらちらと自信がなさそうに瑞樹先輩を見る呉井さんは、いつもの威風堂々とした様子がなく、ただの少女のようだった。

 日向家の別荘を使うのが嫌な理由については、踏み込めない。これだけの人数がいるところで、呉井さんを追いつめるわけにはいかない。

「呉井さんちの別荘にも、これだけの人数泊まれる?」

「ええ、それはもう」

「なんならうちよりも、まどちゃんちの方が広いよね」

 おお、さすがは本家。学校にまで配下の人間を押し込めるだけの財力は、伊達ではない。

「それなら俺たちはどっちでも。なぁ?」

 柏木に同意を求めると、彼女はうんうんと頷いて、

「じゃあ合宿は決まりってことだね!」

 と、日程やら何やらをすっ飛ばして、内容の取り決めを行おうとする。呉井さんも初めてのイベントに頬を紅潮させて、どうやら最低限のことはこちらで決めなければならないようだ。

 俺の希望は、お盆明けなんだけど……瑞樹先輩はどうだろう。

「お盆中は、まどちゃんも僕も、家の都合があるからね。それが終わってからの方が、思う存分楽しめると思う」

 やった! 戦利品を読む時間は短くなりそうだけれど、それでもコミケに参戦できるだけいいとしよう。当たり障りのない同人誌は、持って行ってこっそり読めばいいや。

「そうなんだ! じゃあ肝試しとかもできる?」

「ええ。やったことはありませんが……」

「昼はテニスもできるし、近くの美術館に遊びに行くのもいいよね」

 スマートフォンを覗き込み、呉井家の別荘近隣をチェックしている柏木の提案は、だいたい外に行くようなものである。

「え、テニス……?」

「そういえば、瑞樹さんはお上手でしたよね。久しぶりに恵美との対戦が見たいです」

 どうやら完全なるインドア派は、俺だけらしい。まずい。数の差で、のんびりすることは許されなくなるぞ。

「あ、あのさ」

 俺は挙手をして、きゃっきゃとはしゃいでいるみんなに発言の許可を求める。

「もう一人、誘ってもいいかな?」

 俺と一緒に、いや俺以上に、頑なに外に出たくないと頑張ってくれる奴を、召喚する。

58話

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