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<61話
「それで? 僕はどんな仮装をすればいいのかな?」
おっと意外とノリノリである。
「瑞樹先輩はですねぇ……明日川とニコイチでぇ……」
おい俺を巻き込むな! だいたい俺にさせたいコスプレとか、すでにわかりきってんだよ! どうせ『スタ学』だろ! 『スターライト学園』! 俺がその世界から来たって、呉井さんが信じてるやつ!
でへへー、と笑って柏木は俺たちに揃いの衣装を押しつけた。
「桃次郎様と、金三郎ちゃんのデビューイベントのときの衣装です!」
だろうね! せめて学園にいるときの衣装だったら、学ランで済んだのに!
「ヘアメイクはあたしがやるんで、ちゃっちゃと着替えてきてください。ほら、明日川。あんたもよ!」
衣装はなんちゃって軍服みたいな奴で、俺のが赤。先輩のが白。なんてめでたいカラーリングなんだ……って、キラキラしてんな、なんだ、コレ。手間と金がかかってるんじゃ? 呉井さんのシンプルイズベストなメイド服とはだいぶ違う。
「当然じゃない? だって桃様たちの衣装なのよ?」
ふんぞり返るな。仙川に聞かれてたらお前、えらい目に遭ってるぞ。なぜお嬢様のものを一番に仕上げない、とかなんとか言って。
溜息をつく俺。そして一人蚊帳の外にいる奴。
「……く、くだらない。僕はもう、部屋で勉強をさせてもらうよ」
「おい、逃げるなよ」
とはいえ、「一人連れてくる」と言っただけで、それが山本だとは言っていない。よって柏木も、彼用のコスプレ衣装は用意していないはずなのだが……。
「まぁ確かに、服はないんだけどね。でも、呉井さんのオプションで用意してた奴が……」
がさごそとスーツケースを漁ると、アイテムはすぐに出てきた。某青いロボットのように、「ねーこーみーみー」と振りかざす。
「なっ」
「これさえつければ、普段着なのに仮装気分を手軽に味わえる、最強のアイテムだよねえ~」
ふっふっふ……と、怪しい笑みを浮かべて、柏木は山本に接近する。俺は彼女の意を汲んで、山本を羽交い絞めにする。
「お、おい離せ! 離せえぇぇぇ」
「諦めろ。……それとも俺が着る予定の衣装と交換するか?」
囁けば、ぴたりと抵抗は止む。普通の顔の男が着る服じゃないよな。アイドルの服っていうのは、やっぱりそれにふさわしい人間が着るようにできているんだよ。俺だって、猫耳の方がいい。喜んで身に着けるのに。
「はい、かーわいー」
一度も染めたことがない山本の黒髪に、黒い猫耳はしっくりきた。本人は「屈辱だ……」という表情をしている。
「ほら、とっとと着替えてきて!」
「へいへい……」
そういえば。
「ところで柏木は、何の服に着替えるんだ?」
「あたし? 決まってんじゃん」
最後にスーツケースから出てきたのは、セーラー服。うちの学校の制服に似ているが、生地がどう見ても安っぽい。明らかに既製品である。
「『スタ学』の主人公の制服!」
おそらく、俺たちに着せるための衣装を製作していたら、自分のを作る時間がなくなったのだろう。そこまで楽しみにしていたんだったら、着てやらないわけにはいかないな。
似合わなくても笑うなよ、とだけ念押しして、俺は一度部屋に戻った。
>63話
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