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<65話
「そういえば、だいたい異世界って、食事レベルが低いことが多いよな」
山本は「いったい何の話だ」という表情を向けてくるが、俺は視線で「黙って俺たちに任せとけ」と告げる。
勉強はできないが、こういうときにピンと来て、空気を読むことにかけては天才的な柏木が、俺の意を汲んで頷く。
「なんだかんだ日本人ってグルメだからね。それに、たいていの異世界って中世ヨーロッパ風っていうの? 王様がいて貴族がいて……って世界だから、和食はないね」
呉井さんが柏木の話を興味深く聞いている。いいぞいいぞ。
「料理上手な主人公が、食生活向上目指して奮闘するのが面白いんだよね!」
「……ってことで、料理スキルがないと異世界ではやってけないんだけど……」
呉井さんの料理の腕前は、いかに?
俺の視線に、呉井さんは頬を赤らめた。
「か、家庭科の授業で習ったことくらいはできますわ」
おそらく、と付け足された。
「お嬢様は料理などできずとも……!」
「そういう仙川先生、料理は得意なんですか?」
すかさずフォローに入った仙川にツッコミを入れると、ぐぬぬと押し黙ってしまった。もう少しなんだから、邪魔をするんじゃない。
「男でも女でも、これからの異世界転生には料理スキルが必須。そのためにも」
「そのためにも?」
なんだか呉井さんといると、スピーチスキルがみるみる上がる気がするな。
俺は拳を握って、力強く宣言した。
「明日の晩ご飯は、みんなで作ろう!」
ぶっちゃけ俺だって料理なんてしないし、他のメンバーも同じだろう。でも、至れり尽くせりのフルコースよりも、みんなで作って、美味いだのまずいだの言い合う方が合宿っぽくて楽しいと思うんだよね。気楽だし。
この場の決定権がすべて委ねられている呉井さんは、俺の提案にすぐに乗ってきた。
「何を作りましょうか?」
そう問われて俺がひねり出したのは、
「バーベキューにしよう」
絶対に失敗しませんから、な奴だった。
>67話
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