クレイジー・マッドは転生しない(69)

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クレイジー・マッドは転生しない

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68話

 バーベキューに関しては、瑞樹先輩監修だったので、大事なかった。こんにゃくが出てきたときにはぎょっとしたが、なかなか旨かった。

 呉井さんについて気づいてしまったことで、肉が喉を通らなくなるんじゃないか……って思った。でもそんなん、フィクションだったわ。一般的な男子高校生の胃袋は、胸のもやもやごときには、屈服しなかった。

 昨日の高いステーキ肉も美味しかったけど、みんなでああでもないこうでもない、野菜の厚みがマチマチだったり、半生の肉に手を出しそうになったりするバーベキューは、本当に美味しかった。

 後始末までが料理だ。ちょっと焦げている鉄板をごしごし力いっぱい洗う。片付けが終わって一息つくと、「夏休みといえば! 合宿といえば!」と柏木がうるさかった、肝試しの時間である。

 肝試し、と言ってもお化け役がいるわけではない。別荘地のため、家と家の間の距離は長い。お盆も終わっているので、別荘に滞在している人は、他にはいない。街灯もまばらのため、懐中電灯片手に夜の散歩と洒落込めば、肝試し感は十分に味わえる。

 ペアを決めるためのくじは、山本が作った。おそらく何らかのトリックがあったと思うのだが、呉井さんと俺がパートナーになった。彼自身は柏木とのペアで、見た目ギャルギャルしい彼女に気後れしつつも、俺に小さく頷いてみせた。

「なぜだ! なぜ私が、お嬢様と二人ではない!」

 仙川が阿鼻叫喚の地獄を演出しているが、そこはペアに決まった瑞樹先輩が制してくれる。

「恵美さん。こういうのはね、男女でやるものなんだよ」

「しかしですね……!」

「よく考えてみてよ。恵美さんとまどちゃんがペアになるのはいいとして、僕たち男三人のうち、二人が一つの懐中電灯を持って歩くんだよ……?」

 僕は嫌だな、と先輩は微笑む。俺も嫌です。

「それとも僕と一緒に歩くのは、そんなに嫌なのかな?」

 瑞樹先輩の笑顔が、圧力を増す。効果音をつけるなら、ズモモモモモって感じの擬音かな。

「い、嫌ではないですが……」

「大丈夫大丈夫。夜とはいえ、ここはまどちゃんちの別荘なんだからね。小さい頃からずっと、通い慣れてる。それに、明日川くんがちゃんと、ついててくれるよ」

 俺はキリっと表情を作り、「おまかせください!」と請け負った。仙川はじとっとした目つきで俺を値踏みしてくる。ここで負けてしまえば、山本の気遣いが全部無駄になる。仙川に見張られた状態で、聞きたいことは聞けない。

 にこにこ笑っていてもダメだ。もっと毅然とした態度で臨まねば。

 俺は仙川を睨む。今までだって、俺は呉井さんを裏切るようなことはしなかった。仙川に脅しつけられてきたとはいえ、彼女を守るよう努力をしてきた。もっと信頼してもらいたいものだ。

 だいたいへらへらしていることが多い俺の、いつもと違う顔を見て、仙川は怯んだ。いつも本当の男以上に男らしい仙川が、少しだけ年上のきれいなお姉さんに見えた。

 彼女は大きく溜息をつくと、「……お嬢様をしっかりお守りしろ」と、普段よりもはるかに弱々しい声で命令した。

70話

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