クレイジー・マッドは転生しない(93)

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クレイジー・マッドは転生しない

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92話

 十一月になった。なってしまった。呉井さんの誕生日、すなわちデッドラインまであと十日。彼女を説得する方法はいろいろ考えているが、どれも決め手に欠ける。俺が戦う相手は、日向瑠奈だ。弟である瑞樹先輩に、「天才」と言わせるほどの人間の洗脳を解くのに、生半可なことでは達成できない。

 瑠奈は死の直前に、おそらく呉井さんに何か言ったはず。十七歳の誕生日に、自分の痕を追って死ぬように、洗脳を完了させるキーワードを。それが何かを知る術はない。

 言葉だけで呉井さんをこちら側の世界に留めることができるとは、到底思えなかった。瑠奈が言葉巧みに向こう側へといざなうなら、俺は何か、行動で示してみせるしかない。

 学校でも、一人で考え込んでいる俺に、話しかけてくる奴はいない。茶化しにくる奴は、山本が厳しい口調で咎め、俺に近寄らないようにしてくれている。ありがたい。

「呉井と付き合いの浅い僕にできることは、明日川の邪魔にならないようにすることだけだから」

 と彼は言うが、とんでもない。彼女との付き合いだったら、俺の方が四月からの関係だ。知り合いという期間であれば、いつものメンバーの中で、俺が一番短いのだ。

「それでも、そんな明日川ならできるって、彼女と一番密接に関わってきた二人が、信じてくれたんだから。大丈夫だ」

 山本の励ましは、俺に力をくれる。

「もうすぐ修学旅行だね」

 クラスの話題は、高校生活最大のイベントで持ち切りだ。十五日から四泊五日の予定で、沖縄に行く。県内の高校ではポピュラーな行き先で、他校の友人ですでに修学旅行を終えた人間からの前情報を、もっともらしい口ぶりで話す人間もいる。

 家族旅行で行き慣れて、もう飽きたよ、なんてうそぶく奴だって、学校の友達と過ごす沖縄は、なんだかんだ楽しみで浮足立っているのだ。

「呉井さん、行きたいとこある?」

 修学旅行の班編成も、はみ出し者たち――要するにいつもの、呉井さんと愉快な仲間たちで回ることに、自然となっている。柏木はガイドブックをパラパラと捲りつつ、自由行動で何をするか相談をしている。

「あ……わたくしは、その。修学旅行には、行けないかもしれないので……」

 ぼそぼそと自信なさそうに話すのは、彼女らしくない。

「えっ、どうして? あたし、呉井さんと一緒に映える写真いっぱい撮りたいのに!」

「ええと……いえ、あくまでも、行けない『かも』ですから。話半分に聞いてくださって、構いませんのよ?」

 純粋に修学旅行を楽しみにしている柏木に、水を差すのは得策ではない。そう考えたのだろう。呉井さんは明言を避け、言葉を濁した。

 俺には通用しない。修学旅行の出発は、十一月十五日。彼女の予定では、死んでいる。修学旅行には行けない。

 ん? あれ? ちょっと待てよ。

 そもそも呉井さんが自殺したとなったら、修学旅行は下手をすると、中止になるのではないだろうか。事故でも大騒ぎだろうに、まして自分で命を絶ったとなると、大問題に発展する。

 学校生活に問題がなくても、学校側は教育委員会の査問を受けるだろう。呉井さんがいじめに遭っていなかったか、だとか。そして保護者への説明も必要だし、葬儀に参列する義務もある。担任は絶対だし、クラスメイトもおそらく出席するのが筋だろう。

 その辺のこと、呉井さんはわかってるのかな。

94話

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