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レイノルドに「好きだ」と言われて、ミュートは彼のことを強く意識するようになってしまった。
具体的には、挙動不審になった。
もしかして、一時期レイノルドが自分によそよそしかったのって、あの頃に恋心を自覚し始めたからか?
本人に確認すると、イエスの返事。
「君を大勢に紹介したい気持ちと、他の人間に見せたくない気持ちが同時に存在して、どうすべきかわからなかった」とのこと。
恋心を告げたレイノルドに、遠慮はなかった。情熱的なスキンシップが多くなった。声をかけられると同時に肩に触れられただけでびっくりして飛び上がったり、特に大変なのは、寝室での時間だ。
仮とはいえ嫁入りした身で、国王との謁見も済ませた以上、しばらくこの立場を返上することは難しい。
とはいえ、自分たちは男同士であり、深い友情を築くことはできても、恋愛関係に発展することはないと思い込んでいたから、一緒のベッドでも雑魚寝気分、抱き着いてくるのは枕代わりだから平気だったが、そうはいかなくなった。
「あ~……と、ベッド分けたりとかって……」
「しない」
きっぱりと拒絶され、「ですよね」とミュートは肩を落とす。
「決して君に無理強いすることはしない。キスさえも」
と、レイノルドは約束してくれた。信用できないか、と問われ、首を横に振る。
「あなたが紳士だってことはよく知っているし、信頼しているよ。でも……」
「でも?」
先にベッドに横たわった彼をじっと見つめ、もじもじと寝間着の布地を弄る。
「なんていうかさ、やっぱ、意識しちゃうじゃん……?」
「ミュート。それは、期待してもいいということか?」
返事に詰まる。もともと彼に悪い印象は抱いていなかったし、呪いの謎を解いたあとも家に置いてもらおうという打算はあったが、仲良くなりたいのも本心だった。
その相手から恋心を打ち明けられると、妙に意識をするし、自分の気持ちもまた、彼と同じものなのではないか、と思い始めてしまう。
手を差し出され、ベッドへと誘われる。何もしないって、本当だろうか。恐る恐る自分の手を載せると、強く引っ張られて、ベッドの上だ。
「私は君と、こうやって話ができるだけで嬉しいのさ」
今日は何の話を聞かせてくれるんだ、と彼が問う。何も考えていなかった……レイノルドとのことを考えて、考える余裕のなかったミュートは、どうしようかと悩む。
「それとも、君が乗り気なら今夜こそ初夜にしてもいい」
衝立の奥で、音がした。必要ないと言っても、職務に忠実なジェイクはずっと閨の番をしている。いつも馬鹿話をしているのに、突然「初夜」という色めいたワードが出てきたことに驚いたのだろう。
レイノルドは慣れていても、ミュートは童貞で、無論処女である。知り合いの聞いている中、そんな気にはならない。
真っ赤になって首を横に振ると、「冗談だ」と、レイノルドは息だけで笑った。
「花嫁が死ぬ謎が残っている以上、私は君を抱くつもりはない」
「レイノルド……」
そうだ。恋愛にうつつを抜かしている場合ではない。王太子妃とも約束をした。必ず謎を解いてみせると。
そうだ、とミュートは思いつく。
「いつも俺が話をしているけれど、今夜はレイノルド、あなたの話が聞きたい」
「私の?」
「そう」
これを言うのは、酷かもしれない。ベッドは毎回新調しているだろうが、部屋の壁紙までは頻繁に変えられない。彼の悲しみを抉る自覚はあれど、これは必要なステップである。
「……死んだ、花嫁さんたちのこと」
赤い目が、大きく見開かれる。驚きの奥に、悲しみと、どうしてそんなことを話さなければならないのかという怒りが見える。
「辛いことを思い出させるのは、わかってる。でも俺、メディア様と約束したんだ。マージュ家の呪いに勝ってみせる、俺は死んだりしないって。今俺が生きているのは、ただのラッキーなのかもしれない。だから、敵について知りたいんだ」
勇気を出して、レイノルドの手を握り締め、擦り寄る。自分の好意を言外に伝えるためではない。ミュートは自分が生きている体温を、レイノルドに感じてもらいたかった。
新婚のベッドの上で、自分の隣で冷たくなっていた花嫁たち。彼女たちだって、そのたった数時間前には、生きていた。確かな熱を持っていた。今の自分と同じように、夫となった美しい男に、胸を高鳴らせていたはずだ。
レイノルドは、そっとミュートを抱き寄せる。生きている肉体を、実感している。目を閉じて、お互いの心音がぴったりひとつになったときに、彼は静かに語り始めた。
「……そうは言っても、私が知ることは少ないんだ。行為が終わってから、いや、最中ですら、眠くて眠くて、仕方がなかった」
「眠い?」
嫁いできてからずっと、ひとつのベッドの上で寝起きしている。彼は眠りの浅いタイプだ。耐え難いほどの睡魔に襲われているところは、見たことがなかった。ショートスリーパーというやつだろう。
セックスってそんなに疲れるのか? と、下世話なことを考えた。だが、政務に忙しくしていた日であっても、彼の睡眠はほとんど変わらない。
「それって、花嫁さんも?」
「ん? うん……」
ベッドの上で、新婚初夜の行為について思い出すのは、なんだか生々しいな、と思った。なんだかそわそわする。
「うん、確かに彼女たちもみんな、途中で眠くなっていた。それであまり集中できなかった」
「ふぅん……」
耐え難い睡魔。しかもふたり同時。
レイノルドは、ミュートが先に目を覚ますと、その気配で一緒に起きる。そんな人間が、隣で妻が死んでいる(しかもナイフで胸を貫かれて!)のに気づかず、眠りこけているのはおかしい。
考えられるのは、睡眠作用のある薬を混ぜられた、ということだ。それなら、セックスで興奮して全身に血が回って眠くなるというのも考えられる。
ということは、料理人や給仕係が下手人だろうか。
うんうん唸って考えるミュートの頭に、レイノルドは優しく触れる。
「……今日はもう、やめにしないか? 私も、そう長く思い出したい記憶ではないんだ」
「あ、うん。ごめん」
「謝る必要はない」
レイノルドは、力なく微笑んだ。
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