1 知りたくなかったもの:友人の性癖(2)

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 思えば初めての恋から、相手は自分よりも背の高い女子だった。当時は意識していなかった。小学生は女子の方が成長期が早いこともあって、靖男よりも背の低い女子はそもそも存在しなかったからだ。

 好みが確立したのは、中学から高校にかけてだ。あまりにも短い成長期を終え、靖男の身長は一六五センチと小柄である。けれど靖男はそれを悲観することはない。この童顔で一八〇センチの筋肉隆々の方が怖い、と今は悟っている。

 顔に見合った身長と体型でバランスがよく、愛嬌のある靖男は年齢問わずに「かわいい~」と言われて人気者だった。けれど告白してくれるのは自分よりも小柄でふわふわした女子ばかりで、食指が動かない。

 初めて彼女ができたのは、中学二年のときだ。その頃は今のように達観もできていなかったから、少しでも身長が伸びることに賭けてバスケットボール部に所属していた。彼女もまた、女子バスケ部だった。補欠の靖男とは違い、彼女はエースであった。

 一七三センチという身長と筋肉のついた腕や足を、言葉にはしなかったが、彼女は気にしていた。試合のとき以外はノースリーブを決して着なかったし、スカートも短くせずに、少しでも人目に触れることを避けようとしていた。

 けれど靖男は、それをとても、美しいと思った。背が高いのはモデルみたいだと思ったし、しっかりとした筋肉は、ただ細いだけよりも「生きている」という感じがして好きだと思った。

 正直にそう口にすると、彼女はいつも強気で口を開けば少年のような口調を崩さないのに、真っ赤な顔をして「……そう言ってくれるのは、あんただけよ」と言った。その瞬間、きゅん、ときた。

 ギャップ萌え、という奴なのだろう。それから何人かと付き合ったがいずれも自分より背が高く、そして例外なく、照れ屋だった。男の靖男よりも背が高い自分を恥じ、こんなの似合わないからとフリルがついた甘いデザインの洋服を遠ざけ、素直な気持ちを口にしない。

 そんな彼女たちを口説き、真摯な気持ちを伝えていって、どんどん素直になっていくのを見るのが無上の喜びだった。誰の前でも、ではない。友人たちと一緒のときはいつもどおりなのに、自分と一緒にいるときだけ素直な感情を吐露して甘えてくるのが可愛かった。

 最初の彼女とはキス止まりだった。靖男が童貞を捨てたのは、高校一年のときだ。すらっとした、読者モデルをしていた年上の女性だった。

 その後も彼女が出来たり、合コンで出会った子と一夜の関係を結んだりと、年齢の割には豊かなセックスライフを送っていたが、現在はフリーだし、合コンも好みの子がいなかったりと実りがない。

 おまけに家族と一緒に住んでおり、男の生理や機微をわかってくれないデリカシーのない妹や母が、ノックなしに部屋に入ってきたりするものだから、なかなか処理もできない。

 よって、せっかく入手したAVは、家で見ることはできない。どころか部屋に置いておくのも危険だ。

 棚の後ろの方や抽斗の奥にしまっておいても、妹の驚異的な嗅覚で発見されてしまう。たぶんそろそろ、来る。経験則でわかる。

 見てもいないうちにDVDが見つかって、母の元にまでさらされ捨てられるのは忍びない。せめて一度でいい、堪能してからにしたい。

 ――そうだ。

 同じように実家暮らしでなかなかエロ関連のものを置いておけない友人たちは、一人暮らしをしている友人のところに預かってもらっている。ここからだと、あいつの家が近いなあ、と思ってスマートフォンを取り出した。

 その友人は今どき珍しくスマートフォンを所持しておらず、当然トークアプリも使っていない。メールでもいいのだが、電話の方が速いし確実だった。確か塾講師のアルバイトも今日はない日だ。

 しかし彼は出なかった。ここで諦めて帰宅してもいいのだが、胸のもやもやというか、ムラムラは収まらない。いなかったらいなかったでその時点で帰宅すればいい。とりあえず、彼の住むマンションに行こう、と決めて、靖男は両手で大事にDVDの入った袋を抱えて足早に向かった。

1-3話

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