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後夜祭も終わって、千尋を着替えさせた。千紗を送るという千尋に、靖男はついていった。千紗はご満悦だった。あれこれ積極的に学生たちに話しかけて、連絡先をゲットしていた。さすが肉食女子。思わず声に出していた。
「年下相手に待ちの作戦なんて通じないでしょうよ。草食系ばっかり!」
はは、と笑うと千尋と目が合った。千紗ちゃんはこういう人だから、仕方ないよ、とその目が言っていた。
「それよりさ、あんたたち、まとまったの?」
千尋が狼狽えた。そういう可愛い顔をするからバレバレなんだって、と靖男は内心溜息をついて、千尋の手をぐっと引いた。本当は肩を抱き寄せたいところだが、身長差と怪我のせいでそれは叶わない。
「神崎……」
「まぁ、そういうことっすね」
ふぅん、と千紗は笑った。そして弟の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「よかったね、千尋。幸せになんなさいね」
実家にも顔出しなさいね、と言って千紗は手を振った。うん、と千尋は笑っていた。
「さて……と」
帰ろうか、と言う千尋は自然と靖男の手を離そうとした。
「神崎?」
「俺、怪我人だからさ」
だから手を繋いでいても平気だろ、と靖男は言い募った。実際傍から見たら絶対におかしいだろうが、構わなかった。
「あのさあ、五十嵐」
「うん?」
背伸びして、そっと耳打ちをする。背伸びをしないと届かない距離なんて、女性との付き合いではさすがになかったから、新鮮だ。
「俺の怪我治ったらさ」
ちゃんと、エッチ、しよ?
そう言った瞬間、千尋は反射的に靖男の背中を叩いていた。
「外でそういうこと、言わない!」
「おいこら、こっちは怪我人だぞ! 治らなかったらどうするんだよ!」
「いいよ、別に!」
千尋は微笑んで、靖男の手を握った。
「そうしたらずっと俺が、隣にいるから」
「……うん」
すごい殺し文句だな、と靖男は自分の頬が熱くなるのを感じた。天然は恐ろしい。
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