6 純白に波立つ(1)

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5-2話

 テストが終わった。解放的な気分になったと思ったら、活動局長の名のもとに招集がかかってしまった。しらばっくれることはできない。コンパのお知らせだけを楽しみに、靖男は会議へと向かう。

 なぜか局長の隣には小さくなっているミカドがいた。局長は同級生からも「姉御」と呼ばれるような女傑だ。小柄な身体に童顔、それに見合わぬはち切れんばかりのバストは一部からは夢の具現化と崇められているようだが、彼女の性格を知り勝手に幻滅していく。

「はーい。活動局の皆さん、注目……そこの一年、黙れ」

 活動局長・星崎(ほしざき)みどりの性格を熟知している上級生たちは、彼女が立ちあがった瞬間に口を噤んでいた。だがまだ慣れていない一年はぼそぼそと喋っていて、絶対零度の冷ややかな視線と叱責を受けて固まる。

「皆さん、今年は何の年だか知ってる? 上級生、特に三年生」

 何の年か、だって? 創立からの節目の年ではない。三年生、と注釈を入れてくるのがポイントか。靖男はあれこれと考えるが、答えは出ない。周りの同級生たちも同様らしく、顔を見合わせるだけに留まった。

「ヒント、二年に一回。一昨年はやって、去年はなかったもの、なーんだ?」

 あ、と思いつく。そして声に出していた。みどりが「はいどうぞ、神崎」と促すので、おずおずと「……ミスターかぐや姫コンテスト……?」と言った。

「はい正解。でね、やることはわかってたわよ、私も。でもこの男が!」

 キッ、と大きな丸い目を精一杯ギリギリまで釣り上げて、彼女は隣のミカドを睨みつけた。ミカドは怯えて更に小さくなる。

「『そういやさ~、去年の秋に先輩からミカド引き継いだときにすぐミスターかぐや姫コンテストの司会決めて、打診しとかなきゃならなかったの、すっかり忘れてた』なんて言い出したの! この期に及んで!」

 手は出さないが、びしばしと視線による鞭がミカドに振るわれる。

 ミスターかぐや姫コンテスト、すなわち女装コンテストである。参加者だけではなく、司会も女装をするのが伝統だ。参加者以上に目立つのを避けるため、過度に美しいのも不細工すぎるのもいただけない。そのため準備に時間がかかる。プロポーションを整えるというのが主な原因だ。

「……と、いうわけでステージや模擬店に関しては我々活動局が中心となって決めている以上、この中からコンテストの司会を決めますので、協力をお願いします」

 ちなみにメイン司会は両立が大変なために除外する、というみどりの台詞を聞いて、あからさまにほっとしたのは委員会の中でも一、二を争うイケメンの同級生・小林(こばやし)だった。細身だからそのまま女装してもいけそうなのに、と靖男はこっそり舌打ちをした。

「はいはい! 姉御姉御!」

「はい、は一回でいいし姉御、も一回でいい。……どうぞ」

「準備期間短くてもいい感じの女装になればいいんだろ? だったらもう、神崎一択じゃん!」

 嫌な予感的中。身長が低いというだけで女装を押し付けられる。別にその場のノリで引き受けるのは構わないのだが、「身長が低い童顔だからお前がやればいいんだ」と決めつけられるのは、話が違う。

「お前がやってもいいだろ、佐藤(さとう)。明るいからぴったりじゃん、司会」

 冗談めかしてすべてを自分に押し付けてくる男に対して言うと、「はぁ?」と佐藤は鼻で笑う。

「無理無理。だって俺、一八五センチあんのよ? 女装衣装に割く予算、そんなにないっしょ、姉御?」

「まあ……そうね」

 長身の男が着こなせる女物の衣装は、多くない。バラエティショップに置いてあるコスプレ衣装はどれも笑いものになるためのもので、まともに着られるものではない。きちんとした衣装を買うには、多少値が張る。

 思わず「伝手ならある」と言いそうになった。無論千尋のことだったが、靖男は口を噤んだ。こんなところで暴露して、千尋の信頼を裏切るようなことはしたくない。

 結局周囲の空気が「神崎で決まりだな」「とっとと終わらせよう」というものになって、靖男は渋々ながら、女装コンテストの司会を引き受けることになった。佐藤はあからさまにぐだぐだ言わずにお前が引き受けていればもっと早く終われたのに、という顔をしたいたので、靖男は舌打ちをした。

 やはり背の高い男なんて嫌いだ。自分勝手で許しがたい。

6-2話

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