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BL

右手じゃ足りない(1)

「汚らわしい!」 坂城さかき祥郎よしろうが、時任ときとう飛鳥あすかの声をきちんと聞いたのは、それが初めてだった。 勿論、存在は認識していた。飛鳥だけではなく、上京したての一年生たちを一人一人気に留めておくのは、この「北洋寮」の寮長として当然...
ホラー

のしかかる時の十字架

男の怒鳴り声はいつも、秋生あきおの心を容赦なく殴りつけ、急速に冷やしていく。例え対象が自分ではなかったとしても、敏感すぎるきらいのある秋生は、自分のこととして受け止めてしまう。  横目で見ると、皿を割ってしまった新人の女子大生が、店長から厳...
BL

夢の尾ひれはもう掴めない

ゆらゆらと揺れる水面も、自分の在学中には外にあったプールが今や屋内に作られていることで、日の当たり方が違うような気がした。窓ガラスと水、二つの物質を通過した光は果たして、自分が屋外で浴びる光と同じだと言えるのだろうか。 尤も学生時代に一番不...
短編小説

桜待人

四月になってカレンダーは桜の花の写真に切り替わったが、実物を目にするまでにはあと一か月弱。それでも私は、今日から通うこの市立高校の桜並木に満足していた。 野暮ったいセーラー服――タイも紺色で、黒のラインが入っている重い色合いの――に袖を通す...
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