愛は痛みを伴いますか?(12)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

11話

 そびえたつマンションを、雪彦はいつもと違う感慨で見つめていた。端的に言えば、緊張していた。自分の意志で訪れるのは、初めてのことだった。

「どうしました?」

 オートロックのドアをくぐり、エレベーターへ直行する。様子がおかしいと気づいた幹也に首を傾げられて、雪彦は当たり障りのないことを言った。

「いや。来る度に思うけど、立派なマンションだよな、って」

 四人家族が生活するのに十分な広さである。鍵を開け、幹也は何でもないことのように、「父が所有しているんです」と、さらりと言った。税金対策なのかリスク分散なのか。雪彦にはよくわからないが、少なくとも大学六年間、息子に住まわせる部屋ではない。投資した金額を回収するなら、他人に貸し出した方がいいはずだ。

 そもそも、幹也の実家が経営するくずの葉総合病院は、隣県とはいえ、県境にある。自宅も近くだろう。その程度なら、実家から通っている学生など、ごまんといる。

 そういえばカツアゲから助けたときの幹也は、制服だった。高校は越境して、こちらに通っていたのだろうか。

 そのあたりの疑問を口にした雪彦は、「高校時代から、この部屋で一人暮らしをしている」と言われて、驚いた。

「この部屋を俺に生前贈与でもするつもりなんじゃないですか」

 幹也は雪彦に背を向けていた。ずいぶんと投げやりな物言いに、眉を顰める。今いったい、彼がどんな顔をしているのか。回り込んで確かめたいと思い、行動に移しかけたところで、幹也は振り返った。目元も口元も、微笑しているのに、心はそこにない気がした。ただ、形を真似ているだけの、いびつな顔に見えた。

 雪彦とて、子供ではない。自分の家族と同じように、健全で仲のいい親子ばかりではないことを、知っている。幹也にとって、父のこと、家族のことは、地雷だ。

「そうか」

 深くは突っ込まずに、適当な相槌を打つと、幹也はあからさまに胸を撫でおろした。今度は本当の笑みを浮かべて、雪彦を誘う。

「それで、今日はどうしますか? ご飯? 勉強? それとも……」

 皆まで言わせずに、幹也の手首を掴んだ。力加減を間違えたが、幹也は痛がらなかった。むしろ、きつい縛めを甘受し、この後の行為に期待を滲ませている。

「気は変わらないんですね」

「今のところは」

 じゃあ今日は、一歩進んでみましょうか。

 幹也の声は、媚びるように濡れていた。

13話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました