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<12話
まずはシャワーを浴びてくる、と幹也は浴室に消えた。その間、手持無沙汰な雪彦は、ソファに座ったまま、頭をガシガシと掻きむしる。
自らここに来たことは、雪彦にとってはものすごい譲歩だった。いつもどおり人間椅子の上で読書に励む、ただそれだけのつもりだったのに、勢いで頷いてしまった。
一歩先に進むって、どういうこと?
いや、そういうことしかありえないわけだが?
実際、風呂場に行っちまったんだし?
身を清めるということは、着衣ではない。幹也の裸体は一度も見たことはないが、平手で打ち鳴らした尻は引き締まった筋肉をしていた。それに、雪彦を載せてもびくともしない。見なくてもわかる。いわゆる、セクシーな肉体美を誇る男だろう。雪彦でさえ、きっと憧れてしまうような、そんな身体だ。
しかし、逞しい肉体の幹也を抱くことができるかというと、答えは否だ。恋愛も性欲も、対象は女だ。
求められたら、どうしたものか。葛藤していると、風呂場から聞こえる音で、幹也が上がったことがわかった。ドキドキする心臓を宥めつつ振り返ると、恐れていた突然の全裸ではなかったが、予想を超えた格好をしていた。思わず言葉を失い、凝視してしまう。
幹也が着用していたのは、バスローブだった。ネイビーのロング丈で、エロティシズムを刺激する作りではない。だが、着方が悪いのか、それとも豊満な肉体のせいなのか、胸元は丸見えで、もうすぐ乳首が見えそうだ。見てはいけないものを見ているように感じて、慌てて雪彦は目を逸らした。
自分でも戸惑うほどの動揺は、幹也には気づかれない。彼は音もなく移動する。雪彦が今まで一度も入ったことのない寝室に消えると、すぐにある物を手にして戻ってきた。雪彦の手に押しつける。
「これ、俺につけてください」
つけてくださいと言われても、何に使う物なのか、どこにつけるのかわからない。小さなボールに革のベルトがついている、謎の小道具だ。ベルトを抓んでぶらぶらさせると、幹也は「まさか、知らない……?」と、呆然と呟いた。
「知るわけないだろ。俺、Sじゃねぇし」
「え、でもAVくらい見ますよね? ……おかしいな。ボールギャグはメジャーのはずなのに……」
「メジャーじゃねぇだろ、どう考えても」
言いつつも、「ボールギャグ」という名称で何となく使用法にピンと来た雪彦は、「ほら」と幹也の口にボールを銜えさせる。ベルトを頭の後ろで止めて、緩んでいないか、逆に締めつけ過ぎていないかをチェックする。
「こういうことか?」
喋れなくなった幹也は、嬉しそうにこくこく頷いた。それから彼は、バスローブをさっさと脱ぎ捨てた。見せつけて誘惑しようという、ストリップ精神はない。あくまでも雪彦からの責め苦を即物的に望む態度に、雪彦はなんだか安心した。プレイには同意したが、それ以上を要求されても困るのだ。
>14話
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