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<14話
息も絶え絶えになっている幹也から、まずはボールギャグを外した。
オロオロしながらも、まずは腫れた尻をどうにかしなければならないことだけはわかった。明日、椅子に座れなくなったら困る。
患部はまず冷やすに限る。冷凍庫の中から氷を取り出すが、やりすぎは逆に悪化するのではないかということに気づき、流しの中に捨てる。
結局、洗面所にあったタオルを水で濡らして、尻の上に置いて、幹也が正常に戻るのを待った。ぼんやりしていた幹也の目に光が戻ると、ホッとした。
ずりずりと床を這い動き、ソファの上に寝そべる。一八〇センチを超えた男がごろりと横になっても、余裕がある。一度落としたタオルを、再び尻たぶに載せると、幹也は「ふぅ」と息を吐いた。雪彦はバスローブを拾って、尻を刺激しないように、背中にかけた。いつまでも裸でいたら、風邪をひく。
それから幹也の指示に従って、寝室のタンスの中から、替えの下着を持ってくる。寝室ははこれまで、謎に包まれていた。地獄のような拷問部屋だったらどうしよう。おそるおそる扉を開けたが、普通の部屋だった。
タンスの引き出しを開けるのにも、勇気が必要だった。こちらは恐れていた通りだった。布面積が極端に小さいパンツしか入っていない。真っ赤なTバックは、マシな方だった。一枚取り出してみると、ひらひらレースだった。一瞬女物かと思ったが、玉を収められる構造になっている。
とりあえず無難な黒いTバックを抓み、リビングへと戻る。
「ん」
ほらパンツ、と言うのもなんだか恥ずかしくて、雪彦は無言で下着を突き出した。二本の指先で抓んでいるという持ち方は、人によっては「洗ってあるし!」と怒るところだが、幹也は特に気にした様子ではない。
「ありがとうございます」
言って受け取り、いそいそと汚れた下着を脱ぎ始めるので、雪彦は慌てて背を向けた。
あの体勢では、床に擦りつけることさえできなかったはずだ。つまりは、純粋に雪彦の打擲のみで達したということである。
「雪彦さん」
「ん。お、おう」
着替えを済ませた幹彦に名を呼ばれ、振り向いた。尻に置いてあったタオルを再び洗面所で濡らしにいく。さすがに彼が足元に丸めて放置した、汚れたパンツを洗濯機の中に放り込むほ優しさは持ち合わせていないし、幹也も要求しなかった。
戻って来て、再びうつ伏せに寝転んだ幹也の尻に、タオルを置き直した。
「悪かった」
彼の顔の辺りの床に座り込んで、雪彦は改めて謝罪した。近くで見ると、彼の整った顔立ちがよくわかる。世の女性たちがメイクや整形手術で手に入れたいと願う、平行で幅広な二重まぶたの大きな目が、ぱちぱちと瞬いた。
>16話
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