愛は痛みを伴いますか?(38)

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37話

「何か理由があるのではないですか、幹也さん?」

 年かさの医師は穏健派で、子供のような幹也に対しても、丁寧な言葉遣いを崩さなかった。外科部長のように慇懃無礼な口調ではなく、本心から幹也のことを気遣っているのだとわかる。頑として答えない幹也に対して、兄は聞かれてもいないことをべらべらと勝手に喋る。

「体調不良? そんなんじゃないよなあ、幹也」

 何を言い始めるのかと、幹也は顔を上げて、兄を見つめた。その目は虚ろで、雪彦は今すぐ駆け寄りたい気持ちになる。

「『ご主人様になってください』だっけか? 男相手に気色悪い。その噂を聞いたとき、俺がどれだけ恥ずかしい思いをしたことか」

 室内がざわめいた。それまで幹也に同情的で、何か理由があったのだろうと察していた人々が、ざっと一斉に引いたのがわかった。幹也の顔色は非常に悪い。

 兄は今、弟の一番プライベートな部分を二つ暴いた。被虐趣味であること。その相手が男であること。頭の固い病院上層部の連中には、理解できない二重の性癖である。

「そいつとのセックスに夢中になって、試験なんてどうでもよくなったんだろうが」

 兄は立ち上がり、小さく震えている弟の元に向かった。殊更にゆっくりと、意味ありげに。

「そういえばお前、小さい頃から俺に殴られると、妙にしおらしくなったっけなあ。あの頃から殴られて感じてたのか? ん?」

 妙な色を帯びた声音で、男は言った。自分よりも背の高い弟の襟首を掴み上げる。興奮で鼻息が荒い。

「まだお前がどMだってことを信じてない連中がいるみたいだからよ、ここで実演してやろうか」

「おにい、さん……」

 握った拳が、振り上げられる。

 もう耐えられなかった。早川が制止しようが、雪彦は振り切るつもりで、強く扉を開けた。今にも弟に殴りかかろうとしていた兄を含め、室内の全員の目が、こちらを向いた。

39話

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