愛は痛みを伴いますか?(4)

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3話

 黒高、すなわち私立黒島高校のユキヒョウとは、雪彦の通り名であった。

 髪を染めていると勘違いされることが続き、次第に、地毛だと訂正するのも面倒くさくなった。生活指導の教師の言葉を、右から左に聞き流していると、次第に「あいつは問題児」「不良学生だ」「何を言っても無駄だ」とカテゴライズされるに至った。

 すると不思議なことに、自他ともに認めるヤンキー学生や不良生徒に絡まれるようになったのである。学業成績もそこそこで、真面目に高校にも通う(皆勤賞だ)雪彦としては不本意であった。喧嘩を吹っ掛けられれば、相手をせざるを得ない場面も出てくる。

 不幸なことに、雪彦は滅法喧嘩が強かった。父に習わされた合気道も、高校入学まで真面目に鍛錬に励んでいたので、黒帯である。

 子供の頃から髪の毛や目の色で、からかわれる息子の将来を心配してのことだったが、まさかこんなことになるとは、父も思っていなかっただろう。

 火の粉を振り払っていたら、「あいつ強いらしいぞ」とますます喧嘩っ早いヤンキーたちに絡まれる。そして、もともと雪彦を遠巻きにしていた一般の生徒たちは、一切近づいてこなくなった。

 自分の意見を主張すると、見た目の怖さのせいか、相手が泣いてしまうことが多かった。そんな幼少期を経て、すっかり流されて生きることに慣れ切った雪彦は、ヤンキーに染まっていった。

 結果として、憧れの番長として祀り上げられた。「黒高のユキヒョウ」の名をほしいままにした過去は、雪彦の中では消し去りたい黒歴史である。

 幹也は黒島高校の後輩ではない。今年医大に進学したのは、一浪した雪彦だけだ。近隣の高校に通っていた可能性はあるものの、雪彦は自ら黒高のトップとして動いたことはない。ヤンキー間では有名でも、一般生徒が知るはずもない。

「なぜお前が、その名を知っている……?」

 ふらりと立ち上がり、幹也の襟首を掴み上げる。

 一年間の浪人生活を経て、雪彦の過去はなかったことになったはず。就職したり、専門学校に進学したヤンキーの友人たちとは自然と切れた。誰も彼もが勉強が嫌いで、医大進学を目指す雪彦のことを、理解できなかった。

 予備校は、自分の目標に向かってただひたすら勉強に打ち込む場所だった。雪彦の過去を気にする人間もいなかった。医大に合格した今となっては、雪彦はちょっと目つきが悪いだけの、普通の男である。

 それでも染みついたヤンキー思考は消えず、事と次第によってはタダじゃおかないとばかりの雪彦の暴挙に、なぜか幹也は頬を染め、うっとりとした目で見つめてくる。乗ってくるかビビるかの二択の反応しか経験したことのない雪彦は、不気味な反応に手を離した。

 得体の知れない男は、残念そうにしながら、襟を整える。

「覚えてません? 去年の夏頃、俺、黒高の生徒に絡まれてたところを、雪彦さんに助けてもらったんです」

5話

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