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普段は銀座や新宿の百貨店で買い物をすることが多い孝之は、紫郎が連れてきたショッピングモールの若者向けのセレクトショップを、楽しげに見回していた。
「おっ」
と、嬉しそうに手に取るのは、自分の買い物ではない。大学生や新社会人にとっては、少々高い買い物だが、ハイブランドを身に着けるのが当たり前の家に育った人にとっては、お手頃価格なのだろう。
「これも似合いそうだね」
そう言ってあててみるのは、紫郎の身体だった。
「今の君の髪型とか雰囲気だと、きれいめの方がいいと思うんだよねえ」
男はショッピングを好まないのが普通だと思っていたが、孝之は好きみたいだ。紫郎を着飾るのが楽しくて仕方がない、という笑顔を浮かべている。
すでに彼の手にも自分の手にも、ふたつずつ大きな紙袋が下がっているというのに。
「あのね、孝之さん」
「うん?」
これの色違いはありますか、ああ、そっちもいいですねぇ……! などと、店員と気安いやりとりをしていた孝之の気を、咳払いで引く。
きょとんとした彼は、いい年をしたダンディなおじさま、といった風貌なのだが、あまりにも可愛くて、再び「んんっ」と唸ってしまった。
「もう、いっぱい買ってもらったからいいです」
「でも」
どうやら河合孝之という男、恋人のことは甘やかしたいタイプであるらしい。本人はあまり自覚がないのか、「だって、紫郎くんに似合いそうじゃないか」と、不満そうにしている。
紫郎は小さく息をついて、「あのね」と、孝之に囁いた。手で覆って、口元が見えないようにする。
「俺が欲しいのは、なんでも買ってくれるパパじゃなくて、恋人のあなたなので」
手で見えないのをいいことに、紫郎は音もなく、孝之の頬にキスをした。
ぽん、と染まった頬を庇うみたいに、せっかくセットした髪を崩した彼は、持っていた洋服をハンガーにかけ、「わかった」と、ぽそぽそ呟くのであった。
(了)


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