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<14話
軽快な音楽のあと、すぐに爆破音がして、悲しげなメロディーに切り替わった。
「あ~! また死んだっ!」
早見がくれたゲーム機をインターネットに繋いで、ランキング上位のゲームをいくつかダウンロードした。日高ですら知っている、デフォルメされたひげ男のキャラクターを操るアクションゲームなのだが、現状、初歩の初歩でつまずいている。
昼食の後から、何度も挑戦を続けていた。ゲームオーバーの文字も、もう見飽きた。
母子家庭の貧乏暮らし、男のオメガという珍妙さから、日高には子どもの頃から、家を行き来する友人がいなかった。友威と出会ったのは中学の頃で、彼もまた、ゲームにあまり興味のない人種であった。
現代っ子ならば確実に通るだろう、テレビゲームに触れずに生きてきた。そのため、操作システムへの慣れや勘というものが、日高には欠けている。
暇つぶしにはちょうどいいが、先に進めないのは、地味にストレスがかかる。
「反射神経は悪くないはずなんだけど……」
ぶつぶつ言いながら、コンティニューボタンを押そうとしたところで、扉がノックされる。当然、二人暮らしの家でそうする相手は早見しかおらず、日高は慌てて扉を開けた。
「なんだかすごい声が聞こえてきたが」
執筆活動に勤しんでいた早見が、休憩のタイミングで出てきたところで、冒頭の叫び声である。死んだという穏やかではない言葉を聞きとがめ、心配してノックしたというわけであった。
「うっ。騒がしくてごめんなさい」
恥ずかしさで、頬が熱くなる。
「迷惑ではないが……これは?」
しばらく操作を放っておいたことで、プレイヤーキャラであるおじさんは、立ったまま鼻提灯を膨らませている。大きくなったタイミングで、パァン、と弾ける度に目を覚ます、というのを繰り返していた。
興味津々な早見を見て、日高は両手を合わせ、両目を閉じた。わかりやすく、懇願の姿勢である。
テレビとゲーム機を買ってくれたあの日から、日高は少しだけ、早見に甘えることに抵抗がなくなった。十個近く年下の日高の我が儘は、彼にとっては可愛いもの。
だって、家族だもんな。
これは、早見から割り当てられたロールプレイなのだ。
日高は自分に言い聞かせながら、早見をゲームに誘う。
「全然クリアできなくて、困ってるんです。早見さん、原稿の〆切まだ大丈夫だったら、手伝ってください!」
片目をそっと開けて窺うのも忘れない。こういう年下っぽい仕草に、ことのほか早見が弱いということを、日高はすでに学んでいる。
早見は了承し、しまわれたままだった二つめのコントローラーを取り出した。
>16話
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