平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(22)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

21話

「早見、さん?」

「なんだかこの部屋、甘い匂いがしないか?」

 何の、とまではわからないが、花のような甘い匂い。

 そう言われた瞬間、日高は絶望した。

匂いの正体は、発情したオメガが放出するフェロモンだ。アルファを誘惑し、受精を強要する。

 早見には、フェロモンを感知する器官が備わっていないのだと思っていた。どうやら早合点だったらしい。この世界の人々にも、等しく効くのか。それとも早見が特別なのかはわからないが、困った。

 早見は日高の顔色が変わったのを悟る。

「どうした?」

 再び触れようとしてくる手を、日高は慌てて払いのけた。

 本当は、触れてほしくてたまらないのに。徐々に薬が効いているとはいえ、熱が引くのはまだ先だ。長くゴツゴツした指を見るだけで、それが自分の中を抉るところまで、リアルに想像してしまう。

 股間にぶら下がった雄が、ぴくりと反応し、固くなる。後蕾が、じゅわりと熟れていくのを感じた。

 勝手に妄想の餌食にしてしまったことが申し訳なく、日高は感情の迸りのままに、涙を零した。発情中は、いろいろと緩くなっていけない。慌てて目を擦るが、早見はごまかされてはくれない。

「どうして泣くんだ?」

 咳き込んだときの生理的な涙とは違うことなんて、ばれてしまっている。日高はそのまま泣きながら、自分の身に現在起きていることを訴えた。

「発情期、来ちゃって……」

 抑制剤のシートを見せた。あと一回分しか残っていない。

 早見は薬を手に取って、検分した。薬品名をメモしている。おそらく調べても、無駄だろう。この世界の人間が、こんな薬を創る必要はない。

「次の発情期までは、大丈夫だけど……」

 薬のない発情期を迎えたことなど、一度もなかった。自分の身体とはいえ、どうなることかまったくわからずに、日高は震えた。両腕で自身を抱えこみ、背を丸める。

 帰還までのタイムリミットが、設定されてしまった。発情周期はだいたい、二ヶ月に一度。それまでに、帰れなかったら。

 どうしよう。どうしたらいいんだろう。

 必死に考えるけれど、熱に浮かされた頭では、考えなどまるでまとまらない。

 早見は日高に、今は休むことが最優先だと言った。身体に触れないように注意しながら、布団をかける。

「もし薬がなくなったとしても、無事に発情期を乗り越えられるように、できる限りのことはしよう。セックスの相手は、できないかもしれないが……」

 一人になりたいと言った日高に、そう約束した早見が、部屋を出て行った。

 ああ、やっぱりセックスはしてくれないのか。

 身体の奥の熱は、こんなにもアルファを、孕ませてくれる誰かを……いいや、違う。早見を求めて暴れているのに。

 日高は力なく笑った。

 わかりきったことだ。早見は自分のことを、弟としか思っていない。大切にしてくれているけれど、オメガの日高が望むことは、兄にはしてもらえないことなのだ。

 明後日には、発情期が一段落する。

 そのとき、早見が自分をどんな目で見てくるのか。

 軽蔑されるかもしれないと思うと、日高の心はどんどん沈み込んでいくのだった。

23話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました