平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(24)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

23話

「君は、ここに倒れていたんだ」

 置き忘れられたようなベンチに座り、コーヒーで一服した後の早見の言葉に、日高は辺りを見回した。

 遮る草木の陰もなく、見晴らしがよい。こちらの世界に飛んでいなければ、すぐに見つかって、そのまま連れ戻されていたに違いない。

 何かトリップの痕跡がないかと、早見は熱心に地面を見つめながら歩いている。ここに来てようやく、彼が今日、散歩に誘ってきた理由に日高は気がついた。

 残り一回分しかない抑制剤に、「そのうち」ではなく、今すぐにでも、日高を元の世界に戻す方法を見つけ出さなければならないと危機感を抱いたのだろう。

 日高の身体を慮ってのことか、それとも自分自身の貞操を守るためか、判断がつかない。

 早見の真剣さとは正反対に、日高は見るからにやる気をなくして、後ろをついていった。

 帰りたくない。ずっとこのままでいたい。

発情期の間も、ずっと考えていた。

抑制剤なしで発情期を迎えるのは恐ろしいが、この世界にアルファはいない。無理矢理番にさせられたり、妊娠する危険性はない。

 今回、早見と顔を合わせずに三日間、部屋に籠っていることができたのだ。これからだって、できるだろう。

 落ちていた小石を拾った。つるつると黒光りしている平らな石。沈んでいる日高に気づいた早見は、「貸して」と、日高の手から小石を取り上げ、湖に向かって水平に投げる。水の上を軽快に跳ねていく石を見送る。

 五回、水を切って跳ねる石を眺めながら、早見は日高の方を見ずに言った。

「ここに、俺も捨てられていたんだ」

 日高は目を見開き、早見を見つめた。

自分が発見された場所と、早見が捨てられていた場所。それが同じ湖のほとりだったなんて、まさかの偶然だ。

「だから、放っておけなかった」

 上にパーカーを羽織っただけの日高は、見るからに訳アリであっただろう。救急車を呼んだり、警察に通報したりしなかったのは、早見の独断であった。日高にとっては、神の采配にも等しかった。

「いや、それだけじゃないかもしれない。俺は……」

 日高は思わず、彼の大きな背に飛びつき、シャツをぎゅっと、指先だけで握った。時間が止まったかのように感じられた。だが、触れた先から感じる心音は、秒を刻んでいる。

「日高?」

 小さな声に、ハッとする。衝動的な行動に、一番驚いているのは自分自身だ。慌てて離れ、ごまかすように、「そういえば!」と、ことさらに明るく話を始めた。

「友達から聞いたんだけど、この湖って、向こうじゃ伝説があるんですよ」

「伝説?」

 小説家の早見は、目論見通り食いついてきた。すぐにメモを取り出して、熱心に話を聞く態勢になる。

 そんなに興味を持ってもらえるのは嬉しいが、彼を満足させられるくらい、上手に話す自信はない。

「ええっと……」

 日高は友威の語りを思い出しながら、身振り手振りを交えて、翡翠湖の伝説について話し始めた。

25話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました