平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(38)

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37話

「俺はあの写真を見て、ひとつの仮説を立てた」

 ひとつの世界に、同一人物はひとりしかいられない。

 並行世界へ移ってくるには、莫大なエネルギーが必要だ。その熱量の分、転移してきた人間が勝つ。

「この世界の浦園日高は、君がこちら側にやってきたことで……」

「消えてしまった……?」

 ショックのあまり、日高は言葉を失った。

 早見が、「俺は君の顔を見た瞬間に、その存在を思い出した。街を歩けば、多くの人がパニックになると思い、君には不自由させた。すまない」と、これまでの軟禁生活の理由を語っているが、耳に入らなかった。

 俺が。

 この俺が。

「一般人とは桁違いに、彼は様々な記録媒体に姿を残していた。他の俳優に矛盾なく置き換わるのにも、限度があるだろう。処理しきれなかった分が、心霊写真や事故映像になってしまったんだと、俺は考えている」

 締めくくった早見の顔を見られない。日高は細かく震える身体を両腕で抱え込んだが、抑えられなかった。

「君が悪いんじゃない。不幸な事故だ」

 慰めの言葉に、日高は首を横に振った。

 俺が、消した。

 殺した、よりもなお悪い。死んでしまったとしても、生きた証は必ず残るからだ。

 こちらの日高の出世作となった特撮作品だって、多くの子どもたちに夢を与え、彼らが大人になってからも、「ミラクルレッド、格好良かったよな」という思い出話のネタになったはずだ。

 ツーショット写真を撮影したファンの女性たちだって、そうだ。イベントに参加するために、いろいろな準備をしたに違いない。遠い場所から駆けつけた人だっていただろう。

 大切な宝物だった写真に、意味を見いだせなくなる。気味の悪い心霊写真になってしまう。 

 日高が消したのは、浦園日高という役者だけではない。

 ファンの人たちの心や、彼をキャスティングした作品すべてを損ない傷つけ、失わせてしまった。

 ようやく、早見が一度は読ませようとしたパラレルワールドが題材の小説を、回収したわけがわかった。

 彼は日高の心を守ろうとしたのだ。本を読むことによって、日高が自分自身で真実にたどり着いてしまうことを、避けたかったのだ。

 だって、こんなの耐えきれない。

 日高の罪が、大きく膨れ上がっていく。

「俺が、消してしまった! 全部、俺が!」

「日高!」

 大声に反応し、メレンゲが「ウォン!」と一声鳴いた。ひとりと一匹の声を背に、日高は階段を駆け上がり、部屋に閉じこもり、泣いた。

 泣いたってこの罪が、許されるわけじゃない。

39話

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