迷子のウサギ?(30)

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29話

 シロとの暮らしも半年が経過し、俊が一番楽しみにしていたクリスマスがやってくる。今年のケーキは母が張り切って、ウサギの形をしたケーキを作ると言っていた。シロにそう言うと、「共食いになっちゃうね」と彼は肩を竦めた。

 その様子が随分と擦れた大人のようになっていた。よく遊んでいた従兄も、高校生になったら途端に遊んでくれなくなった。そんな寂寥感を俊は覚えた。もう弟だなんて言えなかった。兄とも思えなかった。ケーキの話で盛り上げようとした自分が馬鹿みたいで、俊は肩を落とした。

「どうしたの、俊」

 しなやかな動きでベッドの上にいた俊の隣に腰を下ろしたシロは、初めて会ったときよりも血色がよく、美しさも磨かれていた。内緒で母の化粧品を拝借しているらしく、近づくと化粧品の匂いが鼻をつくようになっていた。滅多に母は使わないから、たぶん気がついていないだろう。その匂いが俊はあまり得意ではなくて、肩に置かれた手をさりげなく外して、距離を取ろうとした。すぐにシロに気づかれて失敗に終わる。

「今度二人でさ、コンビニに行こうよ。肉まん食べよう」

「コンビニ? 嫌だよ。肉まんとか食べたら、太っちゃう」

 シロの美に対する執着は凄まじかった。夕飯は滅多に食べなかったし、朝と昼も基本的には野菜だけ。米や小向は口にしない。ただでさえ細い身体が、病的に痩せていた。なのに美しい顔、というアンバランスさは、俊を惹きつけてやまない。

「それよりさぁ、俊」

 変に間延びしたシロの声を聞いているのが辛い。自分の身体と心に起きている変化に、俊はついていけない。ふぅ、と耳に息を吹きかけられて、驚いてシロを突き飛ばす。あまりにも軽いシロの身体は、その衝撃でベッドの上に倒れた。

「ご、ごめん」

 慌てて謝罪をして手を差し伸べる。もう、と言いながらシロは俊の手を取って、細長い指で甲を撫でた。ぞくり、と背筋に得体のしれない何かの気配がよぎるが、俊はシロの手を振りほどけなかった。

「きれいな可愛い手だねぇ、俊」

 逃げたい。けれど、目が離せない。そのときのシロの顔を、俊は思い出せない。ただ唇の赤さだ。それだけが鮮烈に記憶に焼き付いて、離れない。唇には何も塗っていなかったはずなのに、そこが一番きれいだった。大好きだった。優しい微笑みを浮かべているときは。でも。

「僕、もう我慢できないよ」

 そう紡いだ唇は、醜く歪んでいたのだ。

31話

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