「監禁された朝、僕は親友を失った」(鳴海しずく)

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レビュー

1月のBL小説は、現代モノ2冊でした。

1冊目のレビューはこちら

現代モノとひとくくりにしても、昨今はオメガバースやDom/Subユニバースなどが流行っているので、純粋な現代モノってなかなか探せないのですが(特に新人作家さん)、キャラ文庫はやってくれますよ。

「監禁された朝、僕は親友を失った」(鳴海しずく)

【あらすじ】監禁したのはおまえのくせに嫌われるのを怖がるのはなぜ? 失われた記憶をさがして少しずつ紐解かれる、謎と恋の軌跡―― ある朝目覚めると、見知らぬ部屋で枷を嵌められ監禁されていた!? しかも昨日の記憶が思い出せない──。混乱する詩乃の前に現れたのは、同じ大学の親友・柏木!! ところが安心したのも束の間、突然キスされてしまった!! 得体の知れない柏木の変貌に怯えていると、「やっと俺を警戒する気になったんだ」と微笑んで…!? 狭い密室で片時も目を離さない親友が、失った記憶に隠した真実と純愛!!

こちらは第1回キャラ文庫小説大賞の大賞受賞作品です。
現在、第1回目の受賞作は三作品すべて文庫が刊行されており、第2回の作品もおそらく準備中かと思います。

キャラ編集部って、新人賞でものすごく勇気のある決断をするというか、流行りに関係なく、
「こいつは磨けば光るぜ!」というのを採用する編集部なんだな~、と思っています。
流行ジャンルが欲しければ、web小説のランキング上位作品をかたっぱしから引っ張ってくればいいわけで、でもそうしないのは、「物語」を書くことのできる作家を採用し、育てたいと思っているからなのだと推測しています。

エブリスタのBL小説合戦のときに、北ミチノ先生の「好奇心は蝶を殺す」を採ったときも思ったけれども、なかなかチャレンジング。
(北先生のデビュー作は、とにかく分厚いので……この長さの作品を、新人賞で採用し、文庫にするんだ、と驚いたものです)
(ミステリ仕立てで面白いからぜひ読んでね)

目が覚めたら手に枷を嵌められていて、部屋から出られなくなっている……という、一歩間違えればホラーサスペンスの世界に入り込んでしまう話。
私はそういう話も大好きですが、BL小説ではないな……。
しかも犯人は親友で、どうやら自分は記憶を失っている?

第一章は現在の監禁生活と親友と出会った春からのことが交互に描かれます。
この移行がスムーズだったので、かなりプロットから考えているんだろうな。
私はこの手の過去と現在を行き来するタイプの話を書いたことはないですが、難しいことは知ってるんだ。
ちなみに第一章が長すぎて、ページの頭に「2」って出てきたときに「に、2~~~~~!?!?!?」ってなった(笑)。

とにかくですね、監禁されている受けの詩乃が、ま~~~~~自己肯定感が低い
自分にばかり原因を求めて思いつめるタイプなので、自分もそういうタイプの人間だという読者は、鏡を見ているようで辛いかもしれません。
私は幸いにして図太い方なので、ダメージは少ない。

で、こういうタイプには心も身体も強くて、包み込んでよしよししてくれるタイプの攻めが来ると思うじゃないですか。
しかしこの攻めの柏木、事情があるとはいえ監禁という手段に出るわけですから、こっちも脆さ儚さを感じてしまう。

守ろうとして監禁して、けれど自分が詩乃を傷つけてしまう。
そう思った柏木が海に入って行ってしまうクライマックスシーンが非常に印象的なのですが……

これ、そのまま心中エンドも考えてましたよね?
私だったら、同人誌だったら心中エンド採用してた可能性があるな……と思い、やっぱりキャラ文庫ってすげえなあ、と思いました。
登場人物がほぼ全員危うく、物語がハッピーエンドに着地するのが奇跡みたいな物語を、ちゃんと大賞として掬い上げてしまうんだもんなあ。
偉大。来年は出せるように頑張ろう……あるのか? 第4回。
(存続のために受賞作を買おうね!)

共依存ルートまっしぐらかと思いきや、詩乃が絶妙なバランス感覚を発揮して覚醒して持ち直すって本当にすごい話よ。
このときのセリフが印象的だったので、引用します。

「俺は俺すら愛せなかった。でも今やっとわかった! 自分を大事にしないヤツには何も守れない。好きな人ひとり守れない。だから変わらなきゃいけないんだって!」(P315)

常日頃、私が口にしている「お前が面白いと思った作品なんだから、面白いに決まってるだろ! 自分の作品を愛せ!」(要約したら暴論になったな)という持論にちょっと近いですが、これが真理。
自分を愛せない人間が、他人を本当に、健全に愛することはできないと思う。
詩乃が変わろうとしなかったら、共依存ルートだっただろうし……。
(なんかこの辺、恋愛シミュレーションゲームかな、と思いました。俺には選択肢が見える……)

弱そうに見えて、実は強いのが好きなので、詩乃には自己肯定感を上げてもらってですね、頑張ってほしい。

大学生が音楽をやる話でもあり、詩乃と柏木の過去のやり取りや、バンドメンバーの巳波との会話はテンポよく進みます。
時折、詩乃のセリフが上記のもののように刺さるのは、彼が作詞をする人間だからかもしれません。

巳波の話が出てきたから謝っておくと、「お前絶対裏切るだろ」と思っててごめん~!!
めちゃくちゃいい奴だった! 
チャラチャラしてるように見えて、誰よりも音楽を愛している男だった。マジでごめん。

オメガバース等々で同性同士の恋愛が当たり前みたいになっている作品が多い中で、差別される痛みみたいなのを読んだのってなんだか久しぶりでした。
詩乃の、

(なにもわかってないんだな。なにも、わかってもらえないんだな)(P161)

というモノローグがひりひりしました。
言葉選びというか、セリフのひとつひとつが印象的な作品です。

失った記憶に関してのネタバレは避けますが、これどうなんでしょうねえ……。
巳波とふたりで活動を続けるにしても、苦しい道のりなんでしょうね。
俺は「あいつ」を許さねぇ! 絶対にだ!
詩乃が許しても俺が許さん!!

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