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<9話
言ったとおりにすれば、バラの花は一週間はきれいな状態を楽しめるはずだった。しかし、三日後に連絡をしてみれば、香貴は浮かない声。一方的に涼の話を聞き、頷くばかりだ。
怪しい。
ピンと来た涼は、一段階声を落とした。
「これからお前んち行くから」
そして本当に訪ねた錦織家、食卓の上に飾られた花瓶には、茶褐色に変色したバラが、しなしなと瀕死の状態になっていた。
三日。たったの三日だ。売れ残りとはいえ、当日の朝、仕入れたばかりの花である。さすがにそんなに早く枯れるはずがない。
涼は花瓶からむんずと花束を掴みあげ、根元をチェックした。先日渡したときと、長さは変わっていない。水からはわずかな刺激臭がして、涼は洗面所に向かう。
流しの下に目当ての物を見つけると、怒りが芽生えた。隠しているということは、原因に心当たりがあるわけだ。
どうしてこいつは、余計なことばかりして、必要なことはやらないんだ。
証拠を押さえられた香貴は、ソファにおとなしく座っている。肩を落とし、足をぎゅっと閉じた状態であるが、反省はポーズに過ぎない。これまでの行いが証明している。
ついこの間見た、「ガーデニングびより」最新かいでは、神妙な顔でプロの話を聞いていたのに、どうして自分の指示には従わない。
俺じゃ、力不足だっていうのかよ。
涼は、ドン、とローテーブルの上に、発見した物を置いた。
「言ったよな、俺。ちゃんと規定通りに薄めて、水は替えるなって」
見つけたのは、大容量の延命剤の容器だった。いつ購入したのかは知らないが、切り花は現状、目の前の萎れたバラの花しかない。持ってみると案の定、中身が明らかに減りすぎている。
液剤や肥料は、正しく使えば絶大な効果を発揮して、花を長く楽しませてくれる。だが、過ぎたるは及ばざるがごとし。使いすぎは植物自体を蝕んで、ダメにする。
「茎も切れって言ったのに、一ミリも長さ変わってないし」
茎を切ったその瞬間から、導管には空気が入り込み、水を吸い上げる力が弱まっていく。花瓶にたっぷり水を入れても、バラの体の隅々まで巡らなければ無意味だ。
「だって、切るのは可哀想だし。水も肥料も、いっぱいあげたくなっちゃうんだよ」
香貴の口から告げられた理由に、涼は呆れる。
可哀想? それじゃあ、この短期間に茶色になった花は、可哀想じゃないとでも?
>11話
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