薔薇をならべて(13)

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12話

 翌日、店には臨時休業の貼り紙をした。母に相談したら、自分も行くと主張した。親子二人でやっている、小さな店である。出かけるとなれば、店を閉めるしかない。

 幸い、残っている花は多くない。どころか、これから行うサプライズにその多くが使われるので、稼ぎにはならないが、無駄にはならない。その分、明日の仕入れは、気合いを入れなければならないが。

 花を選ぶのは、涼の役目だ。迷いなく丁寧に素早く選ぶ息子の手際を見て、母はのんびりとした口調で言った。

「バラばっかりねえ」

 声とは裏腹の鋭い指摘に、涼は動きを止めた。それから何事もなかったかのように、「まあ、バラは花の王様だし。あいつ、バラ好きだし」と言い返す。さらっと言ってしまえば、それ以上の追及はない。

 完全に無意識の行動に、胸の内側が火照る感覚がある。香貴がバラ好きなことは、母も知っている。というか、「ガーデニングびより」の視聴者であれば、誰もが知っている事実であった。バラは園芸家たちにも人気の花だし、番組で取り上げられる機会も多い。そのたびに香貴は、お世辞ではなく満面の笑みで、「僕、バラが一番好きなんですよ」という旨の発言をする。

「でも、それだと目立たないんじゃない? みんなバラの花、選ぶでしょ?」

 涼が思いついたのは、「フラワーショップふじまさ」名義でスタンド花を出すことだった。ロビーを彩るフラワースタンドは、役者の人気度を推し量るバロメータだと聞いた。主演ともなれば、多くて困るということはないだろう。

「べ、別に目立とうとしてやるわけじゃねぇし。あいつが喜ぶのが一番だろ」

 他の花を物色してしまったが、結局バラの花オンリーでスタンドを作成することにした。プレートは昨晩のうちに、字が上手いことで有名な文具屋の幼なじみに土下座して、筆で書いてもらった。

 時代劇の大御所に贈る花のような重厚感が出てしまったが、自分で書くよりは、はるかにマシだ。涼はお世辞にも、字が上手いとはいえない。

 商店街の小さな花屋には、スタンド花のノウハウはなく、新装開店する店に出す花輪くらいしか経験がない。SNSにアップされた劇場ロビーの花を参考にしつつ、涼はどんなスタンドにするか、徹夜で考えた。

 あいつの好きなバラの花が、一番きれいに映えるように。

14話

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