薔薇をならべて(5)

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4話

 目的地周辺です、と女性的な機械音声が告げる。周辺って、と見回した涼の目に映るのは、ずっと続いている壁であった。

「あ、玄関はもうちょっと行ったところです」

「って、これ全部あんたんちかよ!」

 彼の言う玄関は、家の入り口ではなく、門である。警備員が立っていても不自然ではない、しっかりとした門扉の前で、涼は車を止めた。

「入ってください。お礼にお茶でもどうぞ」

 配達先でも滅多にない豪邸である。好奇心がわずかに勝った。

 店の名前を背負った車だ。路上駐車なんてもってのほか。最寄りの駐車場まで案内してもらい、それから徒歩でだらだらと大豪邸に戻ってくる。

 地主の家ってこんな感じなんだろうな。

 感心して思わずこぼした涼の独り言を耳に入れて、「よくわかりましたねえ」と間延びした声。

 駅の南側、すなわち涼の家がある商店街の方は古くから栄えていたのだが、北側はバブル期から最近にかけて、巨大なマンションが立ち並ぶようになった。今や、駅の南北の地価は逆転している。

 錦織家は昔から北側一帯の土地を所有しており、開発に際して大金を得た。そこから投資やら不動産経営やらに成功し、錦織家の財政は成り立っている。不労所得とは羨ましい。

 香貴は働かなくても食っていけるのだが、中学の部活動で出会った演劇を一生の仕事と決めたそうだ。

 花屋として最も気になるのは、庭だった。

 巷では「花の貴公子」とも呼ばれる香貴の家である。珍しい花が咲いていたり、これだけ広い敷地なら、果樹も植えられているかもしれない。

 ワクワクしながら、門をくぐった涼の度肝を抜いたのは、想像とはまったく違った光景であった。

「なんだ、コレ……!」

 呆然とした呟きを、都合よく香貴の耳は拾わない。ぬらっと足音もなく玄関まで歩き、鍵を開けたところで、振り返る。

 どうぞ? と促されても、この庭の状態を見過ごして家の中に入ることはできない。怒りに任せ、どすどすと音を立てて近寄り、香貴の胸ぐらを掴んだ。

「なんで花の貴公子の家の庭が、こんなんなってんだよ!」

 荒れ果てた、という言葉では足りなかった。整えようとした形跡は見えるが、途中で諦めたのかなんなのか。好き放題に伸びた枝葉は、プロの目でもいったい何の木なのかわからない。逆に一部は赤茶けた土が露出し、ぺんぺん草も生えそうにない。

 まあまあ、と宥められつつ家の中に入り、涼はここでも悲鳴を上げた。

6話

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