可愛い義弟には恋をさせよ(17)

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16話

 デートの練習と違い、キスの練習は家でできてしまう。いや、むしろ家でしかできない。外でキスしているところを見られてみろ。昔よりは寛容になってきたとはいえ、男同士のカップルに対する世間の目は、相変わらず厳しい。そもそも和嵩と俺は、恋人同士ですらない……。

 などと、混乱をきたすほどに、和嵩のキス攻勢は凄まじかった。

 朝起きたら弟が枕元に立っていて、「おはよう」という言葉とともに、キスをされた日には、「せめて歯磨きをさせろ」と説教をする羽目になった。あとで冷静になってみれば、「許可を取らずにキスをするな」と言うべきだった。

 隙をついては仕掛けてくる弟のキスは、最初のうちは失敗して鼻や頬に狙いが逸れたが、繰り返すうちに、百発百中で唇を捉えられるようになった。

 柔い触感が掠めると、まずは幸福感が、ぽんと顔を出す。それからじわじわと沸き上がってくる羞恥心や怒りは、和嵩に対してではない。弟にキスをされて喜んでいる自分自身を、圭一郎は許せなくなる。

 和嵩のことは大好きだけど、なるべく二人きりになる時間を短くすべきである。気持ちのアップダウンが激しくて疲弊してしまう。

 そこで圭一郎は、土曜日に半日の休日出勤をすることにした。昨夜、「兄ちゃん、明日どっか遊びに行こうよ」と誘ってきた和嵩に「明日仕事」と言うと、あからさまにがっかりと肩を落としていた。

 ちょっと申し訳ない気持ちがチクチクと胸を刺した。罪悪感から、帰り道に流れるようにケーキ屋に寄って、土産を購入してしまった。

「ただいま」

 今日も玄関の靴をチェック。するとすぐに、ごついブーツがあることに気づく。ファッションにあまり興味がない兄弟には無縁のアイテムだ。真冬でもないのにブーツを履くなんて、圭一郎には考えられない。来客にしても、どんな人間だ。

「母さん、お客さん?」

「そう。あの子のお友達。珍しいでしょ?」

 なに。

 圭一郎はわずかに眉を上げた。和嵩の友人が自宅に遊びに来たことなど、子供の時分から数えても、片手で足りる程度である。友達がおらず、孤立しているのではないかと心配で、自分の学校をサボって、和嵩の小学校の授業参観に参加したほどだった。

 幸い、弟の学校生活は平凡で、楽しくおしゃべりをする仲間も数人いたが、圭一郎が名前を把握している友人はいない。

 そんな人見知りの和嵩が、である。家にまで連れてくるような親しい友人ができたことを、圭一郎は喜ばしいと思うと同時に、複雑な気持ちになる。

 本当にそれは、ただの友達?

 男女の間に友情が存在するかどうかの議論について、圭一郎は自身の経験から、否定的な立場である。ちょっと優しくされると、すぐに好きになってしまう。ゲイの和嵩にとって、男は恋愛対象だ。果たして、友情だけで終わるのだろうか。

 気になって仕方がない。土産を口実に、圭一郎は弟の部屋の扉を叩いた。

18話

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