可愛い義弟には恋をさせよ(18)

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17話

「はい?」

 弟の声に続いて、ドアを開けてくれたのは、背の高い男だった。一七〇センチにギリギリ足りない背丈の圭一郎にとっては、和嵩も十分長身だが、彼はもっと大きかった。見上げた顔のつくりは華やかで、平凡を自負する圭一郎は一瞬見惚れてしまう。

 どちらかといえば繊細な美形の和嵩とは対照に、すべてのパーツがやや大きめに出来ていて、男性的である。弟と最も異なる部分は、男が自分の美貌を自覚しているという点であろう。自身をもっとも魅力的に魅せる顔を知り尽くし、にぱっと大きく口を開けて笑う。

「初めまして! オショーくんのお兄さんですか?」

「え? はい、そうで……オショー?」

 オショーとやらの兄になった記憶はないが、男のにこやかさに包まれた強引さに、圭一郎はうっかり頷いてしまう。両手で握手をされ、ケーキの箱が揺さぶられる。助けを求めて和嵩に視線を向けると、深く溜息をつきながら立ち上がり、どうどうと男をなだめてくれる。

「兄ちゃんは非オタだから、ハンドルネームで呼ぶのやめて。あと、手離して」

 言ってわからぬ男ではなく、圭一郎は解放される。ローテーブルの上に置いてケーキ箱の中身を確認する。思ったほどの惨状になっていなくて、ホッとした。

「えーと、和嵩の友達、なんだよな?」

 弟とは少し年が離れていて、自分と同年代くらいだろうか。オタクがどうとかハンドルネームがどうとか言っていたので、趣味のオンラインゲーム仲間だろうと当たりをつける。

「ええ。オショーくんにはとてもお世話になっています! 僕はノワールシュバルツと申します」

「黒崎さんね」

 うんざりといった表情で、さらりと和嵩が男の本名を教えてくれた。ノワールシュバルツさん、なんて恥ずかしくて呼びかけられない。

 それにしても、和嵩が家族以外に、こんなにも豊かな表情を見せることがあるとは。年齢が上がるにつれて、弟は外では無表情が基本になっていった。

 顔がよい分、いい目を見ることもあったが、嫌な目に遭うことも多かった。隣で見守ってきたからこそ、彼の気持ちはわかる。愛想笑いを辞めて、人を遠ざける選択をしたことを、兄としては寂しく思いながらも、仕方のないことだとも思った。

 その和嵩が、家族といるときと同じように、笑ったり呆れたりしている。

 黒崎はちょっと変わった男だが、信頼に値するのだろう。

 そう判断して、圭一郎が「一緒に食べましょう」と誘うと、黒崎は満面の笑みを浮かべた。

「わぁ! 僕、甘いの大好きなんですよ~」

 それは何とも、気が合いそうである。

 箱の中を覗き込んで、目ざとく「僕、抹茶にしようかな」と言う。

「あ、黒崎さん。それ俺のだから」

 和嵩が自分の所有権を主張する。当然だ。抹茶味が好きな弟のために買ってきたのだから。

 にやにやしながら圭一郎は、「あ、皿とフォーク忘れた!」と、思い出した。

 立ち上がりかけた圭一郎を制して、「僕がもらってきますよ」と機敏に動き、黒崎は部屋を出ていく。大きな身体をしている割に俊敏で、あっという間にいなくなる。残された兄弟は、顔を見合わせて笑う。

「なんか変だけど、いい奴だな。イケメンだし」

「そうだね……思ったとおりの人だった。ゲームでもムードメーカーでね。いつも誰かのために率先して動くんだよ」

 不意に微笑んだ和嵩の横顔に、圭一郎は胸を掴まれる。

 とにかく優しい人。

 黒崎の人物像は、以前聞いた和嵩の好きな人と合致するのではないか。

 顔の美醜について、和嵩が一言も触れなかったのは、彼との繋がりがゲームの中だけで、リアルでは今日が初対面だったからであろう。

 告白できずにいたのも、インターネット上の付き合いしかなかったからと考えれば、納得がいく。

 実際やってきたのが、高身長で人懐こいイケメンで、ますます好きになったのではないか。

 すぐに皿とフォークを持ってきた黒崎に礼を言って、ケーキを二人に選んでもらう。

 弟たちのゲームの話をわからないままに聞き流しながら食べるチョコレートケーキは、濃厚で甘いはずなのに、どこか苦かった。

19話

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