可愛い義弟には恋をさせよ(22)

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21話

 就業時間中は、外回りに行ったり、取引先との電話が長引いたりで、結局会議資料の作成まで回らなかった。その残業も、パソコンに嫌われなければ一時間半で終わってしまう。上書き保存のボタンをしつこく三回押して、圭一郎は帰り支度を始めた。

 まっすぐ帰りたくない。のろのろと鞄に私物を突っ込んでいく。

「天野さん」

 一人だったオフィスに、第三者の声が響いた。驚いて肩が跳ね上がってしまったのを、どうにかごまかしながら振り返ると、津村が入口に立っていた。

「忘れ物か?」

 彼女は首を横に振る。ほんのりと頬が赤く見えるのは、酒でも飲んでから、戻ってきたのだろうか。津村はそそっと近づいてきたと思うと、圭一郎を見上げる。

 昼間よりも、可愛く見える。大人しく、老若男女問わず好かれる自然な可愛らしさは、同年代の同僚がいない彼女なりの処世術の一種であることに、今更ながら気がついた。派手だと嫌味を言われたり、セクハラ紛いの言葉をかけられることを予防している。

 対して、今の津村は目元も唇もキラキラさせている。夜遊びモードというか、こちらが本来の彼女の好みなのだろう。

「そろそろ残業終わるかな、と思って。これから一緒に、飲みに行きませんか?」

 しっかりとした口調だった。彼女は酔っぱらっているわけではない。なのに、顔の赤さは増したような気がする。

「熱でもあるんじゃないのか? 顔が赤いけれど」

 思わず、和嵩にするように額に触れてしまう。掌から伝わる感覚では、熱はなさそうだ。素人診断を下して安心すると、「あ、あの」と控えめな声が寄せられて、圭一郎は慌てて手を離した。

「す、すまん!」

 年下を相手にすると、どうも弟と同じ行動を取ってしまうのは悪い癖だ。まして、津村は女子である。恋人でも家族でもない男に急に触られるなんて、不愉快だろう。

 平謝りに謝る圭一郎に対して、彼女は「悪いと思ってるなら、奢ってくださいね」と微笑んだ。津村の心が広くて助かった。圭一郎は、「もちろん、奢らせていただきます」と、財布の中身を確認もせずに請け負った。

23話

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