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<24話
津村とは、週末に物件巡りをする約束をした。
駅で別れ一人で電車に乗っていると、どんどん酔いも醒めてきて、圭一郎は鞄をぎゅっと抱き締めた。
本当に、この選択で合っているのだろうか。弟のためになっているのだろうか。自分自身のことはどうでもいい。ただ、弟の恋の障害になりたくない。その一心で、津村のアドバイスに全力で乗っかったが、果たして本当によかったのだろうか。
家に帰りついたのは十一時過ぎで、両親はまだ起きていた。
「ただいま」
「お帰り。早くお風呂入っちゃってね」
リビングに弟の姿はない。部屋で寝ているか、ゲームをしているのか。黒崎とゲームを通じて楽しくお喋りしているのかもしれない。想像しただけでキリリと胃が痛くなるが、弟不在の今がチャンスである。彼らの向かい側に正座をして、切り出した。
「父さん、母さん。俺、一人暮らししようと思うんだけど……」
かれこれ二十八年間、片道一時間かかる大学に入学したときですら、一人暮らしをしたいなどと言ったことのなかった息子の、突然の独り立ち表明である。普通の親ならば、驚きつつも喜ぶところだろうが、さすがは圭一郎と和嵩の両親だった。
「和嵩と何かあったか?」
「最近、あんまり喋ってないみたいだし……」
と、真っ先に弟との関係を心配をされてしまった。彼らの鋭さに若干ビビりながらも、圭一郎は「いや、そうじゃなくて!」と否定する。ここは津村からの入れ知恵を使わせてもらい、説得にかかる。
「このままだと俺、和嵩の恋人に意地悪する小舅になるかもしれないし、そろそろ弟離れしないとな……って思っただけ! 全然喧嘩なんてしてないし!」
二十八歳の兄が、二十歳を超えた弟を構い倒すのを見て、母親は思うところがあったのだろう。盛大に溜息をついて、「そうねえ」と、圭一郎の弁に同意を示した。
>26話
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