可愛い義弟には恋をさせよ(26)

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25話

「このままじゃ圭ちゃん、結婚できなさそうだもんね。いい機会かも」

 和嵩目当てで父の再婚を了承した圭一郎は、付随してやってきた新しい母親には、最初の頃は馴染めなかった。小学校六年生、思春期の入り口に立っていたために、素直になることができなかった。母もまた、突然できた大きな子供に戸惑っていて、時には実の息子の和嵩以上に、圭一郎は甘やかされてきた。

 ずっと実家暮らしで長く続いた恋人もいない圭一郎の体たらくに、母は少しだけ、責任を感じているらしい。

「金は大丈夫なのか?」

 現実的なことを尋ねてきたのは父親で、この問いについては、圭一郎は胸を張った。

「大丈夫。貯金はあるんだ」

 何せ特別な趣味もなく、金のかかる恋人もいない。圭一郎が大金を使うのは、和嵩へのプレゼントくらいである。一人暮らしのアパートの敷金・礼金や引っ越し代金くらいなら、余裕で賄えるだけの金額が、通帳には記載されている。

 それならば特に反対することはない、と両親の許しを得た圭一郎は、「じゃあ風呂入ってくるわ」と立ち上がり、リビングの扉を開け、息を止めた。

「か、和嵩……」

 薄暗い廊下に、和嵩は立ち尽くしていた。圭一郎を見つめる彼の顔は、真っ白な能面のようだ。その表情から、圭一郎は最初から聞かれていたのだということを知る。

「カズー。お兄ちゃんそのうち引っ越すから、あなた、荷造り手伝ってあげなさいね」

 両親は、息子たちの間に流れる剣呑な空気を一切感知せず、のんきにテレビを眺めている。

 和嵩には、ギリギリまで秘密にしておこうと思ったのに、こんな風に知られてしまうなんて。

「……一人暮らし、するんだ?」

 俺のこと、見捨てるの?

 和嵩の言葉が二重に聞こえたような気がして、圭一郎は弟の肩に触れようと手を伸ばした。しかし、手が届く前に強く振り払われる。感情の起伏をほとんど表に出さない弟が、激しい憤りを感じているのが、ダイレクトに伝わってくる。和嵩は何も言わずに、階段を駆け上がっていく。

 見捨てるはずがない。お前は可愛い弟なんだから。一人暮らしをしたって、その事実に変わりはない。

 追いかけて、いや、追いすがってそう言い訳をしようとして、圭一郎はそのままだらりと腕を脱力させた。

 弟離れ、するんだろ。追いかけてどうするんだ。一生そうやって、弟に纏わりつくつもりか。

 圭一郎は自分自身に言い聞かせて、和嵩の部屋に押しかけたい気持ちをぐっと抑え込んだ。

27話

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