<<はじめから読む!
<2話
「なに……これ……」
わなわなと持つ手が震える。
本棚にある漫画とは、そもそもサイズが異なる。B5判の本の表紙には、男が二人描かれていた。
一人は脂ぎった肌のオッサン。もう一人は筋肉隆々のマッチョ。問題は、彼らが服を着ていないという点である。ポップなデザインで、隅には「アダルトオンリー」の文字もある。
エロ本。まごうことなきエロ本だ。エッチな漫画くらい、圭一郎とてこの年だ。読んだことがある。オタクではないので、実写の方が抜けるのは置いておいて。
しかしこの漫画は、圭一郎が所持しているものとは趣が異なる。
いや、もしかしたらこの二人の男がまだ見ぬ可愛い女の子を犯す、3Pモノかもしれない。それはそれで倫理観を問われる話だが、「そういう性癖」と言われれば、まだ納得できる。
たとえ表紙のマッチョ青年が頬を染め、熱っぽい視線をおっさんに向けていたとしても……。
淡い期待を込めて、圭一郎はページを開いた。そして閉じた。漫画を開けたら二秒でエロシーンだった。オッサンとマッチョのくんずほぐれつの汗だく汁だくセックスシーンに衝撃を受け、圭一郎の脳みそはショートして、すべての機能を一時停止させた。
「……兄ちゃん?」
耳も目もまったく働かなかったせいで、弟が部屋に戻ってきたことにも、気づかなかった。圭一郎と和嵩は、お互いを見つめたまま……いや、和嵩の視線は正確に言えば、圭一郎自身を見つめていたわけではなかった。兄の手の中にある薄い本を見て、青い顔をする。
(ああ、そうか。これは本当に、お前の私物なんだな……)
母に「圭ちゃんは、カズのことになると途端に頭が悪くなるのよね」と評される圭一郎は、弟に夢を見過ぎていた。さながら、アイドルはトイレに行かないと妄信するオタクたちのように。
しかし実際には、和嵩とて二十一歳の健全な男である。もちろんトイレに行くし、性的な欲求も有り余っている。男同士のいやらしい漫画をオカズにしていることは、想像をはるかに超えていたけれど、事実ならば、受け入れなければならない。
だって俺、兄ちゃんだから。
出会った日から、絶対に何があっても和嵩を守るって、決めたから。自分が彼を傷つける側になるなんて、もってのほかだ。
一応、確認だけしておこう。この手の漫画の愛好家というだけかもしれない。
「和嵩って、ゲイ、なのか?」
恐る恐る尋ねた圭一郎に、和嵩はしばらく突っ立ったままだった。その後、ずるずるとへたりこんだ彼が、俯きながらも小さく頷いたのを、圭一郎は見逃さなかった。
>4話
コメント