可愛い義弟には恋をさせよ(6)

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5話

 外回りの途中で、圭一郎は書店に立ち寄り、雑誌を一冊購入した。男子大学生向けのカジュアルなファッション誌で、スーツ姿のアラサーが参考にする類ではない。表紙の女性アイドルのファンでもない。右隅に目立つ書体で「デート特集」という文字が見えたので、衝動買いをした。

 店を出て強い日差しと熱気を受け、一体何をしているのかと我に返ったが、「やっぱり返品で……」と引き返すのも恥ずかしい。

 ギリギリで鞄に入るサイズだったので、潜ませ、そそくさと帰社する。書店からは徒歩十分ほどなので、すぐに辿り着く。再び涼しい空気に包まれて、圭一郎はホッとしながら、席に着いた。

 勤め先は小さな会社だ。地元商店や企業の設備管理を行っている。地域密着を謳い、基本的にはどんな相談にも乗る。圭一郎は営業マンという名の御用聞きである。定期的に取引先を訪問して、何か困っていることはないか、手伝えることはないかを尋ねて回るのが仕事だ。

 今日も今日とて取引先から吸い上げた要望を報告書にまとめるべく、パソコンを立ち上げる。最低限のソフトだけ入れた会社のパソコンですら、圭一郎は頻繁にフリーズさせて、一人でパニックを起こす。

 オフィス内の全員が慣れたもので、「今日は平気そうかー?」と課長にからかわれ、「任せてください!」と胸を張った。同時に、カーソルが動かなくなった。叫び声とともに頭を抱えていると、呪われてるんじゃないのか、と笑い声が響く。

 反論できずに呻くだけの圭一郎の手元に、マグカップが置かれた。学生時代に和嵩が、「ゲーセンで取れたから、あげるね」とプレゼントしてくれた物だ。よくわからないアニメの女の子の絵柄だが、圭一郎のお気に入りである。弟からの贈り物は、なんでも宝物だ。

「津村?」

「一服して落ち着いてから、挑戦してみましょうよ」

 社長の気まぐれで社員募集をかけるかどうかが決まる企業なので、圭一郎より下の社員は、長いこと入社していなかった。今年の春、久しぶりに新入社員として採用されたのは、事務職の女子であった。

 仕事自体は同じく長年事務を務めているベテラン女性社員が教えているが、年齢が一番近いのは、圭一郎である。自然と彼女と喋る機会も多く、また、津村はコンピュータの扱いに長けているため、圭一郎はかなり世話になっている。

「ありがとう。でも津村、お茶汲みとして雇われたわけじゃないんだから、あんまり気ぃ遣うなよ」

 毎年若手が入ってくる環境ではないので、この辺りの意識が刷新されないのは問題だ。物怖じしない性格の圭一郎は、上司たちに訴え続けているのだが、現状、女性陣の優しさに甘える形になっている。

「ついでだから、大丈夫ですよ」

 朗らかに笑う彼女にもう一度感謝を伝え、熱い茶を口に入れる。冷房で急激に冷えていたということを、思い知らされる。ゆっくり啜っていると、津村の言葉通り、落ち着いてきた。彼女はといえば、圭一郎のパソコンと向かい合っている。

7話

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