短編小説 ハートは戻せない 職業柄、背中にも目がある。「こら、そこ。今持っているものを出しなさい」 できる限り穏やかな声で注意する。まだ振り向かない。こういうのはタイミングが重要だ。 正確な位置はわからないが、ぴりりと教室全体の空気が緊張したのが伝わってくる。 二年生... 2025.02.02 短編小説青春
短編小説 桜待人 四月になってカレンダーは桜の花の写真に切り替わったが、実物を目にするまでにはあと一か月弱。それでも私は、今日から通うこの市立高校の桜並木に満足していた。 野暮ったいセーラー服――タイも紺色で、黒のラインが入っている重い色合いの――に袖を通す... 2020.03.22 短編小説青春