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<16話
「月島、準備できてる?」
準備用に割り当てられた小部屋がノックされた。ああ、と言いながら外に出る。香山は冬夜の姿を認めて、ぷっと噴き出した。
「お前ぇ、笑うなよ」
「いやぁ、だって似合いすぎでしょ」
そういう香山だって、色が違うだけで、冬夜と同じように全身タイツを装着しているのだから、笑ってしまうのはお互い様だ。
「おーい。お前ら、そろそろ始まるぞ」
やってきた橋本に、今行く! と冬夜は応じた。
トラウマを払拭し、自分に自信の持てる男になりたい。そして慎太郎に、冗談でも嘘でも罰ゲームでもなく、告白をする。
そう目標を立てた冬夜は、児童養護施設への慰問を成功させたら、慎太郎の元へ行こうと決めていた。
冬夜が真っ先に行ったのは、サークル長として、メンバーの統率をしっかりと取ることだった。
名前だけのメンバーはいらない。グループトークで一方的に告げ、納得できない人間は一人一人部室に呼んで、話をした。
ボランティアサークルには、試合での勝利やコンテストでの入賞など、目に見える成果はない。だから、ぐだぐだな状態でもなんとかやってこられた。
だが、冬夜は自分の中の淀みとともに、サークルの悪い部分を全部吐き出した状態で、活動に望みたかったのである。
橋本は、真っ先にやめるだろうと思っていた。しかし、冬夜の予想に反して、橋本は「ちゃんとやる!」と宣言し、サークルに残った。
思わず、「なんで」と言ってしまった冬夜に、橋本は苦笑した。
『悪かったよ。お前が自分の目つき悪いの気にしてんの知ってたんだけどさ、笑い飛ばせばいいのにって思って、からかってたところもあるんだ』
今までの行為に謝罪を受けたので、冬夜も笑って許すことができた。
真面目に活動するという言葉どおり、慰問にも着いてきて、雑用をこなしている。
一つ驚いたのは、橋本が子供の扱いに長けているという点だった。尋ねると、彼は「姉ちゃんとこに甥っ子と姪っ子がいっぱいいてさぁ」と笑いながら、子供を三人抱えていた。
「ホールに全員、揃ってんぞ」
「全員って、本当に、『全員』?」
香山が念入りに確認しているので、冬夜は首を捻った。施設の子供たちと職員、それからサークルのメンバー。そんなに確認を要することだろうか。
橋本はにやりと唇と目を三日月にして、「ちゃーんと、『全員』そろってんぞ」と答えた。
返答を聞いて、香山までにやにやし始めてこちらを見てきたので、冬夜はますます困惑した。
>18話
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