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<24話
恋人になってからも慎太郎は、相変わらず優しく、臆病だった。冬夜の願いをすべて叶えようとするので、彼を止めるのに大変なときもあった。
「ところでさ、ずっと聞きたかったことがあんだけど」
キッチンでコーヒーを淹れている慎太郎に言いながら、冬夜は茶菓子として用意されたチョコレートを、ひとつ摘んだ。
専門店で買った高級なものではない。ビニール包装の、コンビニのレジ前に必ず置いてある、安いチョコレートだ。
でも、自分も慎太郎も、このチョコが大好きなのだ。
「なに?」
トレイに二人分のマグカップを載せた慎太郎がやってきて、テーブルの上に置いた。カップは、慎太郎と付き合うようになってから購入した、おそろいのものだ。
照れくさいのをごまかすように、冬夜は熱いコーヒーに口をつけた。慎太郎は気にしている風でもなく、砂糖とミルクを入れていた。
「結局さ、半吸血鬼って、何歳まで生きられるの?」
デリケートな話題のため、付き合い始めて以降、冬夜は慎太郎の寿命について話をするのを躊躇していた。だが、このままじゃいけない。そう考えて、切り出した。
慎太郎は特に言いづらそうなこともなく、首を傾げた。
「うーん。あんまり例がないんだけど、だいたい二百歳から二百二十歳くらいかな?」
ほっとした冬夜は、さらに問いを重ねる。
「で、お前いくつなんだっけ?」
「百五十歳くらい」
冬夜は一瞬のうちに計算して、思わず噴き出した。けらけらと声を立てて笑っていると、慎太郎は目を丸くしている。
「え、なに? なんで?」
「慎太郎って、算数できないでしょ」
仮に二百歳として、残り五十年くらい。
「そのくらいなら、俺たぶん、健康に気を遣って、事故に遭わなければ、生きてるよ」
二百二十歳とすると、あと七十年あまりなので、ちょっとそれは自信がない。でも、生きている可能性はゼロではない。
そう告げると、恋人は目に涙をいっぱいに溜めていた。ここまで生きてきて、彼はようやく、残り寿命と釣り合う相手を見つけられたのだ。感情が溢れてしまうのも、仕方がないだろう。
「冬夜くんには、長生きしてもらわなくちゃ、ね……」
「そうだなぁ……でも、男の一人暮らしってどうしてもなぁ……」
一人で料理を作って食べるのも面倒だし、ついつい外食やコンビニ弁当に依存してしまう。
そう零すと、慎太郎はコーヒーを零さんばかりの勢いで、
「なら、一緒に暮らそう!」
と身を乗り出した。
「お、落ち着け! 一回落ち着いてくれ!」
冬夜が叫ぶと、慎太郎はしゅんと肩を落とす。
ああ、こんなに可愛い男を、一人で残して逝けるはずが、ないじゃないか。
「いいよ。一緒に、暮らそう」
冬夜の返事に、慎太郎はわかりやすく、ぱっと表情を明るく輝かせた。
「一緒に暮らして、健康にいい物食べさせてもらったら、俺の血も美味しくなるかもしんないし」
冬夜は慎太郎の唇にキスをした。素面のときには純情な魔物は、顔を真っ赤にした状態で、
「いつだって冬夜くんは美味しいよ!」
と言って、冬夜をますます笑わせるのだった。
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