臆病な牙(4)

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3話

 特に何の進展もなく、コンビニに通うのも惰性になってきた頃、冬夜は無事に二年生へと進級した。

 金曜日の五限の講義を終え、今日の夜中は、何を買いにコンビニに行こうかと思案しながら帰り支度をしていると、後ろからずしっと重いものに伸し掛かられて、「ぶ」と冬夜は呻いた。

「月島ぁ。罰ゲーム、いつやんの?」

 この声は橋本だ。忘れていようと思ったことを思い出させられて、冬夜はげんなりする。

 ゴールデンウィーク中にサークルの合宿が行われた。活動のためというよりは、新入生との親睦を深めるために行われる。

 橋本はテレビゲーム機を持ち込んで、なぜか冬夜も巻き込まれた。彼とは学科や第二外国語の選択が同じだというだけの仲なのだが、向こうは冬夜のことをやけに構う。

 子供の頃から、一緒にゲームをするような仲の友人はおらず、冬夜は不慣れながら、コントローラーを握っていた。

 罰ゲーム決めようぜ、と言ったのは誰だったか。とにかく後出しだった。その時点で冬夜は負けこんでいた。

 橋本が率先して決めた罰ゲームを、二週間経った今も、冬夜は実行できずにいる。

 一人で実行できることならば、さっさ行って、自由の身になっている。冬夜がぐずぐずしているのは、相手が必要な罰ゲームだったからだ。

「冗談のわかる友達、一人や二人いんだろ」

 それがいないから、困っているのだ。自分と一緒にしないでほしい。冬夜に構っている今だって廊下から、「橋本ー。帰ろうぜー」と、同じ授業を履修しているのかどうかもわからない学生から声をかけられている、橋本とは交友範囲が違うのだ。

 あの日決められた罰ゲームは、「男相手に愛の告白」という、誰も得をしないネタだった。

 すぐに罰ゲームだとばらす予定だが、相手には相当不快な思いをさせる。確実に冬夜は罵倒され、今後の友達付き合いもお断りされるに決まっている。

 かといって、見ず知らずの相手を捕まえて、一時の恥とばかりに告白する勇気もない。

 見知らぬ間柄ではなく、大学のコミュニティに関係のない人間なんて、果たしているだろうか。

「……わかった」

 一人だけ、いた。迷いつつも、冬夜は彼を巻き込むことに決めた。これは一つの賭けだ。

 負けたところで、これからの大学生活に支障はない。ただ、少し胸が痛むだけ。

「でもその人、夜中にしか会えないんだ」

 冬夜の頭の中には、美形のコンビニ店員・「かざまき」の顔が浮かんでいた。彼に告白するしかない。

 初対面の冬夜に親切にしてくれた彼ならば、断るときにも言葉を選んでくれるだろうという理由が、一つ。

 そして、この嘘の告白をきっかけに、何かが変わればいいと思ったのが、もう一つ。

 その変化がプラスならば、もっといい。マイナスであっても、冬夜が夜中にコンビニに行く理由がなくなるだけの話だ。

 告白する前に、橋本に電話をかけることにした。そのまま通話を繋いで、冬夜の声を拾ってもらい、罰ゲーム実行の証拠とする約束をすると、橋本は友人たちと出て行った。

 冬夜は時計を見る。

 「かざまき」が出勤するのは、十一時。あと五時間あまりの死刑執行までの時間をどう過ごすのが、正解なのだろうか。

5話

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