花食みの王子は、夜桜の愛を咲かせる(18)

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(17)

 百花王として立ったリカルドは、日々忙しくしている。

 特に春の間は、各地の祭事に呼ばれることがほとんどで、あちこちと回る。外国に行くことはないが、やってきた各国の来賓を、花の館で歓待することもあった。

 アズマはパートナーとしてすべての場に同行し、剪定師になるために蓄えてきた知識でそつなく対応し、リカルドを支えた。

 そんな忙しい日々の中、ぽっかりと開いた休日。

「やはり、リカルド様の淹れてくれるお茶が、一番おいしいです」

 素朴な焼き菓子をお供に、ふたりきりの茶会である。学生時代はよくやったものだが、花の館に移ってからは、もっと豪奢なものを用意され、茶葉も最高級のブランド物を使うことが多い。

 百花王手ずからブレンドしたハーブティーについては、今もなお、アズマにしか饗されない。

 この身体を作り替えてしまった薬草は、もちろん含まれていない。アズマが「あのお茶、美味しくて好きでしたよ」と言ったら、リカルドは張り切って、他の素材を組み合わせて、似たような味を作ってくれた。これでもじゅうぶんに美味しいとアズマは嬉しく思っている一方、彼は「まだ違う」と、完璧を目指して試行錯誤をしている最中であった。

 まだ酸味が……アレの割合を減らせば、とぶつぶつ呟いているリカルドに、アズマはふと思い立って、聞いてみた。

「そういえば、私の身体が変わっている最中、体調不良だったのにあなたのお茶を飲んだら一気に治ったことがあるんですが……家にあるお茶を淹れても、効かなかったんですよね」

 ごつごつと岩のような形をしたスコーンを割り、クリームをたっぷり載せてご機嫌で頬張ろうとしたリカルドの手が、何の気なしに発したアズマの言葉でぴたりと止まる。

 長年の付き合いから、ピンと来た。

「リカルド?」

 ブートニエールは対等な関係だ。とはいえ、いつもはしっかりと節度を保った接し方を心掛けているアズマが、彼のことを呼び捨てにするのは、「事と次第によってはお説教ですがよろしいですか?」の合図である。

「正直に話してくださいね。あのとき助かったのは、間違いないんですから。ただ、不思議だなぁ、って思っただけで」

 怒らない? と、子どもみたいに首を傾げる仕草に微笑むと、諦めたリカルドが、真実を告げる。

「あの体調不良は要するに、花生みに変わろうとしているときだったから……な?」

 わかるだろう? 察してくれ、という思念は読み取れたが、アズマは首を横に振った。楽をするんじゃない。しっかり自分の言葉で説明しなさい、と。

「だから、花生みのための特効薬と言えば」

 花食みの体液。

 ピンと来た瞬間、アズマは真っ赤になった。

「あなた! そ、そんなもの……!」

「だから、ごめんって! でも、すごく辛そうだったから……」

 だから、カップに唾液を少しだけ入れたのだと告白をされ、アズマは脱力し、ソファの背もたれに全身を預けた。

「怒ったか?」

「怒りませんよ……あなたが私のことを、どうやってでも手に入れたいという気持ちは伝わっていますからね」

 菓子を食べる手を止めた彼は、向かい側からわざわざ立ち上がり、アズマの隣に腰を下ろした。そのまま黒い髪を愛おしいと梳き始め、アズマはまったくもう、と溜息をついた。

「結局私は、あなたのすることをすべて許してしまうんだ」

「ありがたいと思ってるよ」

 目元にキス。ふわりと香るのは、アズマの感情に呼応して咲いた桜だ。最近は、コントロールが利くようになってきたものだが、ふたりきりでいるとどうも、気が緩んでしまう。

 リカルドは指で摘み取り、そのまま食べる。彼にとっては、焼き菓子よりも何よりも美味しいごちそうだ。

「これまでのことは水に流してあげますが……これから先は、勝手なことはしないでください」

 そう告げると、リカルドの反応は妙だった。一瞬身体をこわばらせ、表情も緊張した。思わずじと目になって、「リカルド?」と、低い声で呼んだ。

「またあなた、何か変なこと考えて!」

「いや、大丈夫! まだ何もしてないから、まだ!」

「構想はあるってことでしょう!?」

 思ったよりも騒がしくなった休日の午後、結局最後には、アズマの手首が捕らえられ、甘いキスでこのお茶会は締められるのであった。

 花の館は、今日もふたりの愛であふれている。

(了)

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