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<9話
土曜日、要は俊平の家の近くまで迎えに行った。本当は格好良く、自分が迎えに行きたかったのに、と悔しがる俊平は、ペーパードライバーだ。都会では車を使う機会もないから、仕方がない。実習中に事故を起こされても困るので、俊平は助手席に渋々と乗り込んだ。
シートベルトを締めたことを確認して、要は「それで? どこに行くんだ?」と問うた。俊平は、わざわざ入手したのだろうガイドブックを掲げて、「大沼!」と答える。
市街地から車で一時間弱で着く大沼は、国定公園として、地元の学校のバス遠足の定番である。要は最初、そんな目立つところは……と渋ったが、俊平は杞憂だと言い張った。
「観光地って、なかなか地元民は行かないじゃないですか。プライベートで行ったこと、あります?」
そう言われれば、幼い頃はいざ知らず、遠足でしか行った記憶はない。同じ観光地であっても、五稜郭のような繁華街に近い場所よりは、生徒に目撃される危険性は低いだろう。
了承して、要は車を発進させた。ややしばらくのドライブの最中、俊平は要をサポートした。水が飲みたいな、と思ったときには、蓋が開いたペットボトルが差し出される。少し眠くなってきたな、と思ったらガムを差し出される。
「お前、よく俺の考えてることわかるな」
クールだと言われる要の表情は、劇的に変化しない。欠伸だってみっともないから、噛み殺している。俊平は、嬉しそうに甲斐甲斐しく世話を焼きながら、
「え? 見てればわかりますよ?」
などと言う。赤信号で停車したときに、ちらりとミラーで自分の顔を確認したが、いつもと同じだった。
「俺、やっぱり助手席でよかったかもー」
カーナビがついているからいらない、と言ったのに、俊平は道路地図を開いてナビを気取っている。
「なんで」
「えー、だって運転してたら、せんせの顔見れないっしょ?」
若者らしい口調で、とんでもないことを言う。そのとき青信号に変わり、慌てて要は、アクセルを踏んだ。
>11話
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