運命と偽りの花嫁(水川綺夜子)

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レビュー

これで今月買ったBL小説はようやく読了です。

「運命と偽りの花嫁」(水川綺夜子)

北国の王子・アムリタは美貌と聡明さからアルファだと期待されていたが、のちにオメガだと判明する。オメガは奴隷同然の身。アムリタは父王により地下牢に繋がれる。一方、砂漠の国ではアルファの若き覇王・イルが妃となるオメガを探していた。宣託に従い北国を訪れたイルは、一目でアムリタこそ運命の相手だと理解する。だが長年の幽閉でオメガの嗅覚を失ったアムリタは求婚を拒絶する。イルは「君に尽くそう」とアムリタを庇護するが、父王はアムリタに非情な命令を下しており…?

「運命と偽りの花嫁」あらすじ

商業BL小説界でもメジャーになったオメガバースもの。
これまで、ファンタジー世界よりも現代日本を舞台にした作品の方が、読んだり書いたりする機会が多かったです。
「オメガへの差別が社会問題となっている」という設定があったり、実際、就職が難しかったり、学校でいじめにあったり・・・・・・という描写がなされていたり。

しかし、ファンタジー作品だと、とことんオメガが追い詰められます。
第一王子として生まれたのに、オメガと判明したために地下牢に繋がれて、嬲り者にされる。
その境遇に反対をした実母は、処刑される。
さらにひどいと感じたのは、年の離れた弟を人質にして、彼が兄を守ろうとしたことで、爪を剥がすという罰を与えられたシーンです。
父王からの非情な命令を受け入れざるをえない主人公・アムリタが悲痛でなりません。

あらすじを読んだ限り、
「なるほど暗殺者として送り込まれたのか・・・・・・ベッドの中が一番油断するもんな」
と思ったのですが、実際はもっとひどいもの。
豊かな砂漠の国の外戚となり、影響力を持つのが目標の父王にとって、監禁生活で不妊になったアムリタは無用の者。
推定・オメガである弟王子を代わりに嫁がせるために・・・・・・というのが真相でした。

確かに、長きにわたって監禁され、身も心もボロボロになった受けが、若く体力もあるアルファの王(しかも運命のつがい)を殺すことができるかというと、寝室でも厳しいかもしれない。
裸にされていたら、短剣を隠す場所もないしね。

不毛の凍土の北国と、砂漠のオアシスとの対比が美しく刺さります。
特に地下で暮らしていたアムリタにとって、色彩豊かなオアシス、魔石が浮かぶ砂漠の国は、まぶしく映っていたことでしょう。

異文化交流は、ファンタジー小説の楽しみです。
アムリタの場合は、世界各地を巡っていた母の話を聞いていたこともあり、大きくショックを受けることはありませんでしたが、それでも実際に目にするのは大きく違ったでしょう。

ただひたすら怯え、自身が無価値であると思っていたアムリタが、イルの庇護下で、自分の本当にやりたいこと、人の役に立ちたいという気持ちを芽生えさせ、生気を取り戻していきます。
それでも父からの命令をイルに伝えることは、「今はこんなに愛してくれているけれど、子供ができないと知れば、捨てられる」という恐怖ゆえにでした。
アムリタ自身、王族であることから、国を治めるために血を継ぐことが大事だということは、痛いほどわかっているからこそ、がんじがらめになり、結局決行寸前まで追い詰められてしまうのでした。

オメガバースって、この話のタイトルにもあるように「運命」である程度のことは解決できると思っています。
印象的な出会いのシーンも、匂いによって「運命」だとわかる・・・・・・なんていう風に創ると、格好がつくようにできています。
ただ、個人的にはその「運命」に頼るのが好きではなくて、自分自身でオメガバースものを書くときの引っかかりになってしまいます。

この話は、王の運命のつがいは北にいると託宣があり、探しに来たイルが、地下に閉じ込められたアムリタを救う場面から始まります。
作中、イルはアムリタにこのように言います。

「(前略)それじゃ、君という人間でなく、オメガとして値踏みをしているも同じだ。(中略)・・・・・・運命云々は抜きにした、そのままの君を愛したいと思ったのだ」

『運命と偽りの花嫁』P173

流されずに、アルファとオメガではなく、人と人としての情愛を交わそうとする攻めが印象的でした。
(そしてそんな彼が、実はアムリタよりも年下、成人間もないということに萌えます)

小説本文の書き方が、一般的なBL小説とはちょっと違うというか、翻訳もののファンタジーを読んでいるような感じがします。
一視点で書かれていると思いきや、途中でふっと他のキャラの視点にスイッチするときがあるから、それが理由かな。
水川先生の読書遍歴がとても気になります。

結婚式で踊るアムリタがとても嬉しそうで楽しそうで、冒頭の彼の痛ましい様子と全然違って、よかったです。

あと、サブカップルのなれそめ話を後書きに書いてくださっているんですが、こちらも気になりますね。
年下の何でもお見通しのオメガの王様が、百戦錬磨(だろう)のアルファ攻めを振り回しているんだろうことが、本文中でも見受けられたので。こちらもちょっと期待しています。

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