迷子のウサギ?(2)

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 笹川についていくと、次第にフロアに物々しい雰囲気が漂ってきた。制服姿ではないが、どう見ても警察関係者であろうスーツ姿の強面の男たちが目立つ。別に悪いことをしているわけではないのだが、俊は緊張に喉を鳴らした。

 一つの扉の前で笹川は足を止めた。セキュリティのしっかりした病室だ。パスワードを入力して、ロックを解除して扉を開けた瞬間、大きな声がした。

「だから、俺はウサギなんかじゃねぇんだってば!」

 よく通る、若い男の声だった。低い声で「ウサギ」などというワードが聞こえて、俊は身構えた。ウサギ? どういうことだ。高山の顔を見ると、にやにやと笑っているだけで何の答えも得られはしない。

「藤堂刑事」

 笹川はくたびれた様子の男に声をかけた。藤堂という華やかな名前とは違い、ぎょろりとした目ばかりが目立つ冴えない男だった。

 警察相手でも笹川は臆すことなく淡々と主張する。

「彼は事件の被害者です。確かに彼からしか得られない証言もあるでしょうけれど、でも今は、彼は患者です。興奮させないでください」

 まるで主治医のような物言いだった。しかし、と言いつのろうとする藤堂に対して笹川はにっこりと笑うと――笑顔の方が怖いということが本当にあるとは思わなかった――、「どうぞお引き取りください」と入ってきた扉を指して退室を促した。有無を言わせない様子だった。

 ベッドの上にいるのは青年だった。俊と同じくらいか、あるいは少し年上。入院着は少し小さめらしく、胸元がぱつぱつだった。普通は大きめに作られているだろうから、彼がいかに鍛えてるかがわかるだろう。

 顔立ちは精悍だ。一つ一つのパーツの自己主張が強い。くっきりと通った鼻筋や厚い唇。二重の目はぎらぎらとした光を湛えて、憎々しげに出ていく藤堂を睨みつけている。

 見たくない事実が眼前にあるのに、俊は気が付かないフリをする。あまりにも目立っているのに、わざと目を逸らす。

 藤堂が出ていくと、彼はその敵意に満ちた目をこちらに向けた。笹川はもう笑ってはいない。ただ無表情に青年を見つめている。

 二人の間に割って入ったのは高山だった。

「やあやあ。調子はどうだい、ウサオくん?」

「ウサオじゃねぇっての! いい加減にしろよ、おっさん!」

 ぴょこん、と彼の頭に付属しているモノが怒りに連動して揺れた。俊はせり上がってくる苦いものを飲み下す。

「じゃあ名前思い出せたの?」

「うっ」

 今度はしゅん、と垂れた。いや、元から垂れているのだが、しおれたように見えた。

 高山は俊を振り返って、「彼が君の実習相手だよ、三船くん」と言った。実習ってなんだよ、と青年は喚く。

 冗談じゃない、と思っただけではなくて声に出ていたらしい。

「三船くん?」

 いつも冷静で大人しいという評価をしていた学生が、いきなり物騒なことを言い始めたので高山は驚いたらしい。俊の顔を覗き込もうとするが、それより先にばっと顔を上げてもう一度、今度は大きな声で言った。

「冗談じゃない! 俺はウサギは嫌いだって何度も言いましたよね、高山先生!?」

3話

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