次に歌うなら君へのラブソングを(3)

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2話

 六月一日付で、花房はなふさ一里いちりは司の教室に配属された。小さな教室だから、社員は室長の司と、花房のふたりきりだ。

「蓬田先生。こちら、花房先生」

 上長である湧田がわざわざ花房を連れてきた。

 初対面の感想は、「社長とあんまり似ていないな」だった。血の繋がりを感じさせるのは、背の高さくらいのもの。それも、背中を丸めているため、常に胸を張って颯爽と歩く社長とは、まったくの別人だ。

 長い前髪も、教室に入ってきてから司と一切目を合わせようとしない様子も、小中学生の相手ができるのかと、不安に駆られる。

 塾に通っているのは、おとなしい真面目な子どもばかりではない。やんちゃなタイプは、こちらが大人だからといって、簡単に言うことを聞いてくれるわけではない。高圧的になれとまでは言わないが、はったりでもいいから、自分が正しいから従えというオーラを醸し出すことが重要だ。

 貧相な童顔で、どちらかといえば舐められがちな司は、いまだしっかりと目を合わせることのない花房を見て、心配になった。

「蓬田司です。よろしく」

 そんな内心はにこやかに隠して、頭を下げる。会釈だから、長い時間ではない。すぐに顔を上げた司は、花房がこちらを見ていることに気づき、驚きに目を見開いた。

「えっ」

「どうしたの、蓬田先生?」

 思わず声に出した司に、湧田は首を傾げた。

 なんでもないです、と言いながらも、司は花房から目を離せなかった。

 切れ長の、伏せると睫毛の長さが目立つ、美しい瞳。夜遅い時間でも光り輝いていたはずのそれが、どんよりと曇っている。

 人違いか? 

 さっと彼の指に目を向ける。爪はあのときと違って伸びてはいないが、関節の骨ばった具合を、自分が見間違うはずもない。

 何せこの二年半余り、ほぼ毎日のように顔を合わせていた男だったのだから。

4話

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