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<102話
「学校……?」
やってきたのは夜の学校。日曜日だし、修学旅行も近いので、部活の練習もすでに終わっている。職員室も薄暗い状態で、誰もいない。門も閉まっているはずなのだが、一応は学校関係者の仙川に頼んで、開けてもらっていた。
目指すのは、俺たちのいつもの場所。何をするわけでもなく、ただお菓子を摘みながらだべっているだけの部屋。それでも、俺にとってはかけがえのない場所となっていた……被服室だ。
「夜の学校って、なんだか……」
「怖い?」
呉井さんは首を横に振った。
「面白いですわね」
ゾンビに嬉々として銃弾をぶっ放していた彼女らしい答えが返ってきて、俺は片頬を歪めた。彼女は、俺の口数がだんだん減っていることに、気がついているのだろうか。
被服室もまた、鍵はかかっていない。中に入る。電気をつけようとした呉井さんを止めた。誰かが外にいるかもしれない。途中で入ってこられるわけにはいかない。
月はほぼ満月のため、教室内には月光が薄く射し込み、青白い明るさがある。何も見えないというわけじゃない。俺が窓の外に目をやると、呉井さんも釣られて空を見る。そして電気をつけない理由を納得したように、頷いた。
「呉井さん」
「はい」
「誕生日プレゼントがまだだったよね?」
もらえない、と彼女は即答した。今日死ぬのにあたって、未練となりそうなものはいらない。そう言うわけにもいかず、呉井さんは言い訳すらせずに、ただひたすら「いりません」を繰り返す。
「大丈夫。物ではないから。目を閉じてくれるかな?」
「でも……」
しばらく渋っていた呉井さんだが、根負けして、結局は目を閉じた。優しい月の光が、彼女の睫毛を滑り落ちて、頬を白く輝かせる。俺は鞄の中から、あるものを取り出して、呉井さんの手首にかけた。
ガシャン、という音と同時に、呉井さんは驚いて目を開けた。そして自分の手の違和感に、恐る恐る目を向けて、驚愕の悲鳴を上げることになる。
「あ、明日川くん!? これはいったい、どういうことですか!?」
慌てるのも無理はない。俺は彼女と自分自身を、手錠で繋いだ。
「鍵、鍵を!」
「鍵は残念だけど、ここにはないんだ」
年齢をごまかして、いわゆるその手の店の通販でゲットした手錠は、玩具とはいえ本格志向だ。金属の重りもずっしりしていて、何度も引っ張ったりして抵抗すると、擦れて傷になるだろう。
「どうして、こんなことを……」
「君を一人で死なせないため」
淡々と告げた俺に、呉井さんが絶句する。何を馬鹿なことを、と唇が形作る前に、俺はすべてを知っていることを暴露する。
「呉井さん、今日死ぬつもりだったんでしょ? 日向瑠奈のいる世界に転生するために」
長々と説明する必要はない。これだけの指摘で、聡い彼女は何もかもを理解してくれる。ひとつ深呼吸をして、心を鎮め、口を開く。
>104話
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